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年上の彼女がずっと、PSPで遊んでます。イケメンとか美女とかいっぱい出てくるRPG。レアの装備が出えへん…とさっきから何やら真剣です。俺はなんちゅうか…俺はその…


「お忙しいとこすんません、…構ってくれませんか」
「んー?」


名前の奴なら今日あいつ非番やぞ、と。金兄から聞いて彼女の部屋に飛んできたまではよかった。呆れながらも名前さんは笑ってくれて部屋に上げてくれはって。今日は何も気にせんといちゃいちゃできるやんかと思てました。正直。

まさかヨハネ伝福音書ぽいっと渡されて、「とりあえず一章から三章な」なんちゅう無茶ぶりをされるとは思うてもおらんかったもんで、受け取りそこなった福音書がまるっきり間抜けに足の上に落っこちてとりあえずまずそこで痛い思いをしまして。こんな理不尽な行いには抗議せな、と思ったらもう彼女はこっちを向いてすらいない、と。
ほんで、以降、名前さんは俺をばっちり無視。しゃーないし、まあ一章から三章までやったらなんとか…と思て一応覚えようとは思て。
まあ目の前に彼女おってお勉強なんかやる気も何も出えへんしふつうに無理でしたけども。

「…名前さんのいけず」
「覚えた?」
「…ません」
「早よしい」
「……ちゃんと覚えたらご褒美とか、くれはります?」

名前さんは、ちょいっとゲームの画面から目を上げて俺を見て、男子高校生の健常な下心を見透かすように形のいい眉を片方持ち上げる。

「廉造が十八になるまでは手ぇ出さんって柔造さんと約束してん」
「殺生な…」
「チューくらいならしたるから早よ覚えてまえ」

またカチカチとPSPのボタンを押す音がし始める。名前さんは案の定、もうこっちを向いてもない。…いや、チューしたいですけども。俺からばっかりがっついてんのが最近悲しいくらいなんで名前さんからしてくれはるとかやったらそれはもう掛け値なしに嬉しいですけども。
ふと、ゲームの何かが上手くいってへんくて不機嫌気味にアヒルになっとる名前さんの唇に目が行ってもうて。

「名前さん、チューしたい」
「うざい」
「ひどい」
「詠唱騎士目指すんやったら福音書丸暗記くらいできんとやっとられんえ」
「名前さん、詠唱騎士とちゃうやないすか」
「違うても分かるわ、アホ」

ついに名前さんは観念したようにゲーム機をスリープモードにしてわきに置いた。俺がにやけてんのを見て、ぽってりして色っぽい名前さんの唇が不機嫌そうにへの字になった。俺は開きっぱなしの福音書のページを意味もなくめくる。名前さんが、俺がアホなんをどうにか是正したいゆう気持ちを持っとんのはまあ気付いとりましたけども。

「俺の勉強の心配なんかして、どないかしはりましたん?」

知っとってあえて俺が聞いたことを名前さんは当然察したようで、小ちゃく首を左右に振って、高尚な理由ではない、ともったいつけたようにシリアスに呟いた。

「私、あんたの心配もしてんけどな、自分のことも心配やねん」
「はい?」

伸び伸びに伸ばして寝そべっていた身体を起こして、俺の正面に三角座りして、名前さんの口元はいつの間にかいつものようないじめっ子の微笑を浮かべている。

「せやし、早よ立派な祓魔師になってな、廉造」

…ヒモ抱えんのはごめんやで、っちゅーことですか。………不肖廉造、がんばらしていただきます、愛のために。

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