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彼女は頬杖を突いてやたらに真剣な顔でこう切り出した。


「さわりたいって思うの、不純?」


何を言い出すかと思えば、この間言ってた男との関係がだんだんいい感じに男女っぽくなってきたらしい。彼女は何を見ているわけでもなく、いやちょっと違うか、おれが机の上に置いた片手を睨むように見つめている。変なところで悩むよなあ、とおれは他人事だから考える。


「不純」
「一応もう成人だし不純でも」
「おれ、女友達のぶっちゃけトークとかぶっちゃけ聞きたくないんだけどな」
「…だって」
「はいはい」
「ごめん」
「いいよ。好きなだけ言いな」


彼女は深く深くため息をついて、ぽつりぽつりと言葉を繋げ始めた。自信がない、と言いながら自分の右手を庇うように左手を被せ、彼女は少しだけ唇を結んだ。

手に入ったその瞬間からもう手放すことを覚悟している彼女の、うっすらと涙の溜まった目を見返して、ため息をひとつ。結構泣き虫なところが、彼女のかわいいところだと結構前から彼女を知っているおれはそう思うわけで。
つい最近彼女と「初めまして」を言い合ったような奴と彼女がそういうことになったことに関してはまあ残念の一言だ。だっておれの片思いはそういう事情に敏いはずの彼女の眼中にそれこそ隅っこにさえ映っていなかったということになる。なあ何でそいつのサインには気付いたのにおれの方は見ないフリ?マジで気付かなかったとか、マジで言うならおれは泣く。…いや、嘘。今彼女のぶっちゃけトークに耐えられているおれは多分きっと泣かない。彼女がもしかして万が一にもおれに向かってそいつとのセックスの話なんか持ち出してきたとしたってきっと泣かない。生々しいんだよ、と悪態をついてやめさせて、でも結局話を聞くだろう。彼女の恋する顔を憎く思いながら顔も知らない彼女の男を殺してやりたいと思っているなんてことは億尾にも出さずに。
それで彼女がいつかそいつにふられるかふるか、まあ何でもいい、別れることになって泣いたりするならおれは相変わらずお前のそばにいるんだって、ずっとそうだったんだって、今度こそ。

そうだよ、お前の大好きな都合のいい男はずっとお前の近くにいた。なあもういい加減おれ、言ってもいいかな。次、お前がもしおれに泣き言を漏らすようなことがあったら、今度こそおれだって言うよ。












「どうしよう佐助」


彼女の紅潮した頬が持ち上がる。泣き笑いをして、彼女はおれの肩をやや頼りなげに掴んだ。どうしよう。もう一度そう言って、彼女は続きをようやくという風に言う。


「一緒に暮らすことになっちゃった」


…なってしまった。なあそれって後悔?どっち?…いいや、分かっている。彼女は本人の想定を超えて幸福になってしまったのだ。なって、しまったのだ。


「どうしよう、じゃないでしょうに。嬉しいんでしょ?」


彼女の紅潮した頬に戸惑いに似た苦笑が。また小さく、どうしよう、と呟いて彼女は続きの言葉を飲み込みかけながらも吐いた。


「こんな幸せでいいのか分かんない」


おれは彼女の大粒の涙を、幸せで、感激して、泣いてしまっている彼女の頬を指の先で拭ってやるべきか迷いながら、大丈夫だよ、と言った。いったい何が?
ついに言わなかったことを後悔して、今さら言葉にならないくらい傷付いているおれのこと、お前はもう一生知らなくていい。そこは大丈夫。

大丈夫じゃないのは、そう、おれだけ。



「幸せなんだろ?なら、贅沢しとけって」



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