| ナノ ※学パロ


伊達と帰りの電車が一緒で降りる駅まで一緒ってことは前々から知ってたし、何でそうなったか忘れたけど一緒に帰るくらいまあいいかなんて。思ったわけで。
途中のコンビニで買ったペットボトルのふたがなかなか開かなくて苦戦してたら横から手が伸びてきて何にも断りなくパキッとか小気味よく開けてくれたりなんかして、ちくしょうこいつイケメンだなあ、とか。そんなん思ってる自分が乙女すぎて目玉転げ落ちるかと思った。

この私が伊達にときめいてるとかまあそれはいい。会話が色々二転三転する間に何を間違えたのかいつの間にか話題は恋愛だ何だという流れになっていて、遅ればせながら、あれ?とか思って、まあ私なんか片思いだけどねなんて言ったのをしまったと思った。だって横歩いてるこのイケメンに恋なんかしてるわけだから。うわなに恥ずかしい。



「好きな奴いんのかよ、お前が?」
「いたら悪いってか」
「冗句としてはいまいちだな」
「いるもんはいんの。妬くな」


すこぶる意外そうにされたのが気に障ってつっけんどんに返す。いるとも。すぐ横に。
ホームに行く人通りの多い通路をすたすた、伊達を置いていくくらいのつもりで歩く。制服のスカートが妙に足に絡まるのがイライラした。プリーツを片手で払って直そうと試みるも、歩きながらじゃ無理だった。


「妬くか。…お前に惚れられるような運の悪い奴の顔なら一度拝んどいてやりてえがな」


これがコンパスの違いか。悠々と追い付いてきた伊達はまだ中身の入っているペットボトルで自分の肩を叩いた。にやにや笑っている。だからお前だよ。
この野郎、人のときめきとか切ないなんかそういうのをまるっと無視してくれやがって。


「鏡でも見れば?」


うっかり言った。黄色い線の内側に並んで立っている長身痩躯が弾かれたみたいに私の方を向いた。おま、とか伊達が何か言いかけている間にホームに電車がやって来て、私はもう一回伊達を置いていくくらいのつもりでさっさと乗り込んだ。まあでも乗る電車一緒だし言ってしまったものは言ってしまったのだから今さら逃げても無駄ってものだ。
ドアが閉まる。呆然としていた伊達がやけに焦って私の横へ足を出した。
私はペットボトルを出して炭酸を一口喉に流し込んだ。お茶にすれば良かった。こんなんじゃすぐに喉渇く。っていうか全然潤わない。
ドアのすぐ横の棒を掴んで伊達はちょっと落ち着きを取り戻したようで、一息ついた私にじろりと一瞥をくれた。


「顔色のひとつくらい変えろ、お前は。焦るだろうが」
「は?超緊張してるよ、今」
「嘘つけ、しれっとしやがって」
「伊達が焦りすぎ」


閉まったドアに寄りかかって、カバンに飲み物を戻す。伊達は棒を掴んでない方の手を所在なげに持ち上げたあと、結局その手をドアのガラス上に落ち着けた。
イケメンの腕の間に挟まれた格好になっていると気付いて、まさか言っても良かったのかなとか思ってしまう。いやまさかね。確実にタイミングのチョイス間違ったもんね。


「…なあ、名前。さっきの本気かよ」
「二言は無い」
「男らしくて結構だがなんか違うぞ」
「しつこいな。そこの窓にでも映ってるよ」
「……俺の顔だよな?」
「自分の顔もわかんなくなっちゃった?」
「馬鹿にしてんのか名前テメエ」
「うるさい」


本当にしつこい。そう思って思わず伊達に頭突きを繰り出してしまった。そしたら私の顔を覗き込もうとして屈んでいた伊達の額にクリーンヒット。正直私も痛い。
こんな暴力的な手段に訴えてしまった言い訳をするなら、開き直りでいつもとは180度くらいベクトルの違うテンションになってきてたしちょっとイライラしてたのもあった。何たってこいつは私に好きな人いる説を笑った男だ。自分が好かれてる本人だと分かったら何を言い出すか分からないっていうか内心ドン引きされてたらどうしよう。
何で言ったんだろう。………勢いか。そうか。

額を押さえた伊達が手の奥からうめいた。え、なにその声超怖い。


「お前な」
「うざい」
「……お前な」
「せっかく開き直ってんだからほっとけ」
「ほっといたらそれ駄目なんじゃねえの」
「ノリで言っただけなんだからもう流してよ、ガチでフラれたら悲しすぎ」


もう一回伊達が私の顔を覗き込もうとしてくるからなんか色々情けない気持ちになってきていた私はうつむき気味になる。なんかちょっと泣きそう。
しばらく黙ってそうしていて、電車の車内アナウンスが何駅目かの駅名をぼそぼそ発表するのを聞いていた。あと三駅。
反対側のドアが開いて閉まって、電車がまた走り出した頃、伊達がいきなり私の肩に頭を乗せた。深いため息が首の辺りをかすめて、ぞわっとした。いや別に悪い意味とかいやらしい意味じゃなく。びっくりして。
だって公衆の面前だ。視線を泳がせまくって、誰もガン見とかすんじゃねーぞと念をふりまいてみる。ていうかそもそもこういうなんか勘違いとか期待とかしたくなることをしてほしくない。
これで本当にガチでお前のことそういう風に見れないとか言い出したら大泣きしてやる。
…期待していい方向なんだったら、まあそれはそれで泣くかもだけど。


「で、伊達くん、こういうのやめてもらえますかね」
「うっせえ。両想いなんだろ。余韻とか堪能させろ」
「……初耳ですけど」
「今言った」
「うっぜえ」


ガラスに突いてた伊達の手が首の裏に回ってきた。毛先をさらさらもてあそびながら伊達が低い声を出して私の名前を呼んだ。おいおいここ公共の空間なんですけど。とか思いつつ私だって片思い成就したからってちょっと浮かれてて、にひひとかやけに機嫌よく笑って伊達の後頭部をくっしゃくしゃにかき回してみたりして。

誰も見てんじゃねーぞ、と思いながら伊達が好き勝手にキスしてくるのを受け付けつつあと一駅の電車に揺られていく。




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