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私は彼とした短い恋のことを誰にも言いませんでした。顔にも態度にも、お互い出してはいないつもりで居ましたが、仲間たちはもしかしたら気付いていたかもしれません。けれど誰も私たちの関係を言及することはなかったのでおそらく確信はなかったのだろうと思います(例えば城之内が知っていたとして騒がずに居てくれるとも思えません)。もちろん私たちは至って自然体で接し合っていましたし、ともすれば私よりも彼と密着度の高い人なんかはいくらでも居たのです。
そのことには特段、悔しいとも妬ましいとも思いませんでした。私は私の形で彼を好きで居ればいいのです。かたわらに仲間として立っていられるだけで幸福だったのです、本当はずっとそうやって下手くそな片思いをしていくつもりだったのです。彼が、私を鷹揚に受け入れてくれたことの方が、よほど異常なのです。きっとすぐに別れが来てしまうし、きっとひどく傷付けてしまうだろうと彼は言いました。それでも今、手を伸ばさずに居られないのだと。私はそのときの彼に言ったのです。呆気なく終わりが来るのは誰にとっても同じことだから何も怖くはないのだと。ひどい詭弁でした。互いの心に、さだめによって裂かれたというやるせない思いがとり憑くことは見え透いています。傷付くのは私だけではないのです、優しい彼も同等に。
それでも、私はいずれ遠くい未来にいなくなってしまう彼を、例え今だけであっても愛したかったのです。正面から彼を愛したかったのです、彼に愛されてみたかったのです。
例えば、彼が死者の世界へなど行かずに今のこの世界に留まったとして、あっさりお互いに飽きてしまうなんてことがないとは限らないのです。もしも、もしもそうして惰性化し劣化してしまうくらいなら、それならいっそ消せないような傷になってしまえばいい。いつまでも甘い疼痛の残る傷に。
「王様、忘れてもいいよ」
向こうへ行ってしまったら私をきれいに忘れてくれたって構わないのです。私がいつまでも、死ぬまで覚えていればいいのです。彼が私を忘れることはないと信じ続ければいいだけでした。確かめる術はないのですから。
「お前がいつか、死んだときには俺が迎えに行く。同じ冥府へ来い。必ずだ」
それが最期でした。彼は遊戯に負けました。私はかたわらに立って、ただ見ていました。声援を送ることも泣き喚くこともなく、ただただただ。
さよなら。逝ってしまう彼に笑いかけましたが、彼にそれが見えていたかどうかは定かではありません。ひどく重たい悲しみが肺の中をぐるぐる回ります。彼はどんな気持ちで、彼を見送る仲間たちを相棒を好敵手を見ていたのでしょうか。その場に居る誰にも、分かろうはずのない疑問でした。
三拍程度遅れて追い縋ってきた熱い涙が、溶岩のようにどろりと目玉から溶けて落ちていきました。このかなしさが劣化する日は来るだろうかと考えましたが、そんな日は来ないとすぐ気付きました。私は彼を忘れません。私はまた彼に会うために、彼のいない場所で、生きていくのです。彼にまた会いたいから。だから今から先の未来、私はこのかなしさから逃げることはないのです。この幸福なかなしみでまた私は生かされて、そうしていつか。



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