「っは、絶対この瞬間。私は鬼灯様と同じことを考えたはず。そう、これは運命」
「わかったから仕事してください」
周りが呆れるくらい、私の目の前にいる上司である鬼灯様のことが大好き。もう好きすぎて毎日胸が苦しい。苦しいっていうよりもう狂うしい?言葉による表現力が乏しいのでここまでにしておきます。けれども鬼灯様は私のことは眼中にないようです、知ってますそんなこと。眼中にないゆえに、冷たく当たってくれるところも素敵です。
目の前に広がる書類書類書類調査書のピラミッド。こんなピラミッドがあったらきっと昔からエコ活動には積極的じゃなかったんだね。生きている間もこんなことしていたなぁ、なんて考えていると書類に不備が見つかった。不備というより、まあ、これはまだ入りたての子がパラパラ漫画を作ったのだろう、それが紙の端に書いてあったので全部消さなければならない。後で血祭だ。ブラッドフェスティバルだ。
「はあ、鬼灯様。その顔の造形、そしてその正確に才能。もうたまりません」
「こっちもたまったもんじゃありませんよ。どうしてあなたが提出した書類は必ず誤字脱字があるんですか。あなたは書いている間に何もかもすべて忘れてしまうのですか?」
「あら、気づいてくださったんですね私の愛」
「こんなスカスカの愛情くれるなら犬にでもくれてやります」
鬼灯様のデスクは私の隣。事務の総合的なことをしているけれど、ほとんど鬼灯様が手際よく終わらせてしまう。そこも素敵。毎日鼻息荒く鬼灯様の隣で事務作業に徹しているのによく間違ってしまう、あらら、さすが私の忘れん坊さん。
「貴方は少し落ち着いて仕事をしてください。こっちが迷惑します」
「鬼灯様、元気?」
犬のシロがやってきた。く、なんていうタイミングなんだ。鬼灯様と私の吐息の空間に入ってくるとは、恐るべし鬼ヶ島へ行った桃太郎の子分、シロだ。
「今日も相変わらず先輩、求愛行動してるんだね」
「シロ、そう思うのならば今すぐここから出て行って、察して」
「察するって何を察するんですか、シメますよ」
「すみませんでした」
私はしぶしぶパラパラ漫画を消すことに集中した。
「鬼灯様、先輩といると機嫌がいいね」
「そうですか?」
「うん、とっても雰囲気やわらかいよ」
そうですか、と答えたくなったが、こんなことを白豚に聞かれたら後で面倒になる。私はその話題から早く離れたかった。今日は厄日かもしれない、遠くから白豚の姿が見えた。そしてあの白豚はゆっくりとこちらへ、何か企みを込めた笑顔を浮かべて向ってくる。
「やあやあ、こんにちは」
「さようなら」
私がそう答えると白豚は私の方を指さしてあざけるような笑いを交えながら言葉を吐き掛ける。白豚、ああそういえば今日の晩御飯は生姜焼きですね。
「さっきまであの子と一緒にいたんでしょ、顔がゆるんでるよ」
「それはあなたの目が悪いでしょう、どれ、貸してみなさい。治しますよ」
「やめろよ!ちょ、目つぶしなんてくりだすなよ!」
この男は本当に嫌いだ。私は目の前にいる男の目を掴もうとしたり、つぶしてやろうと試みるがなかなか触れない。そんな中、シロさんは私のほうを見て「やっぱり仲がいいんだね、先輩と」なんて言っている。そりゃあ当たり前です、と答えたくなった。
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