リクエスト | ナノ

他の人より私は情報につうらしい。そんなこと、誰が決めた、というか誰が吹聴したんだと聞きたくなる。もしも情報につうだからと言って変な悪評を立てられたらどうしよう。いきなり、「貴方って、誰にでも人の秘密をべらべらしゃべりまわるおしゃべり機械なんでしょう?」とか「最低ね、貴方みたいに口八丁手八丁で生きていく人間って八方美人ともいわれるわよ」と小ばかにしてきたり。不安ばかり募る。けれど、今からそれはわたしじゃないとか、言い張れば言い張るだけ無駄だということはわかっている。自身は消極的だ。


今日はちょっとだけおしゃれに、タピオカミルクティーを飲んでいた。やっぱりこのもちもち感はたまらない。飲み物と一緒に飲めるという考えを初反したのは誰なんだろう、感謝状送りたくなってきた。ぼんやりと、タピオカミルクティーについて考えていると友達は、誰かを連れてきて「あ、そこにいたの!」と明るく振舞っている。いつも暗いのに。


「あのね、この子が黒田君のこと聞きたいんだって」

「この子って?」

「この子!私の友達なんだけど、あ、隣のクラスの」

「山花ちか、だよね」


私がそういうと「やっぱり何でも知っているんだね」とちかちゃんは答えた。私が何でも知っている、そんな不名誉なことを褒められてもピクリとも笑えなかった。ちかちゃんは黒田のことが好きらしい。わたしがはっきり言えたことじゃないが、彼女が黒田君、というたびに何度も顔を赤らめて、鼻汗をかいていた。途中で、息が荒くなったりもしていた。そうか、これが恋愛なんだ。なんてぼんやり思っていると唐突に私は尋ねられた。


「黒田君ってどんなタイミングで、どんな場所で告白したらオッケーくれるかな?」


大人しそうな顔をしている割には案外怖いことも考えているんだなぁなんて、傍観者のように思えた。黒田はこの子に告白されて喜ぶだろうか?答えはきっとNOだろう。


「そうだねぇ、みんなの目の前で告白すると逃げられなくなるから妥当だと思うよ。けれども、黒田は結構中学生男児ってところがあるから無碍にすることも」

「そうじゃなくて、私が聞きたいのは」

「それ、私より黒田に聞いた方が早いと思うよ」


そっけなく答えたのに、ちかちゃんは大喜びした。なぜ私に聞いたのだろうか。心の中では不満のトルネードが炸裂している。ちかちゃんは私の友達と一緒にどこかへ歩いて行った。騒がしい女だ。心の中でそっと片づけておくと、携帯に通知が来た。黒田?と思ったら全くの別人、知らない人間がフォローしたのこと。人と仲良くすることをさらさらどうでもいいと思っている私は拒否した。



放課後、夕暮れにいろんな影が重なる中。私はある男と喋っていた。そう、それが黒田。


「黒田、アンタって見た目のおかげでモテるのね」

「うるせぇな、また俺のこと聞かれたのかよ。お前、どこまで喋った」

「なにも、ただ、告白予定立てている女の子にアドバイスしただけ」

「そのアドバイス、アドバイスになってんのか?」


どうだろう、と笑いながら答えると黒田はただため息をこぼすだけ。黒田とはただの同級生。同級生だけれども、仲のいい方の同級生だ。恋愛感情を持っているか?と聞かれたらきっとNOと答えるだろう、だってこんなにも話すことが心地いい存在なんて家族以外居るだろうか?私はメモ帳に残してある人の話を一瞥した。


「うっわ、これが盗み聞ぎの実体」

「別に、守秘義務なんて私に生じないでしょ」

「俺、そういう細かいこと知らねぇからわかんねぇよ」


黒田に法律の話をしてもまともな答えが返ってくるなんて期待していない。私は黒田をよそにメモ帳を見つめた。もしもこの中に黒田の秘密があったら会話のネタにしてやろう。ちらりと教室のドアのガラス張りになっている部分に影がよぎったような気がしたのでそちらを見ると自転車競技部の背の高い、茶髪の男だった。あの表情を見ると私たちがカップルだって勘違いしてる、だから私は色気のある笑みを向うへ送った。そんな色仕掛けをしている私と対照的に黒田は携帯でゲームをしていた。