その他長編 | ナノ


目が離せなかったあの夏の日

今から二年前の夏の日。あの日が多分、大きな分かれ道。もしも、あの日にナマエが来なかったら…。
いいや、来ても来なくても結論は変わらない。


その日は、幼馴染のナマエが俺の家に遊びに来た。俺の家に遊びに来ることは珍しいことじゃない。幼馴染はいつものように俺のベッドに座ってゲームをしたり、漫画を読んだり遠慮なくくつろぐばかりだった。
俺が話しかけても適当で、曖昧な返事しかしなかった。俺はその時、確か読み飽きてしまった漫画を片付けていたはずだ。見るものも、やることもなかったから、遊びに来たナマエと一緒に楽しみたかったんだ。けど、ナマエは違った。

ベッドの上ごろごろするなんて自分の家でもできるだろう、俺は「何でもないなら帰れよ」と言った。

軽率な判断だった。ナマエは顔を歪めてそこで泣き出してしまった。忘れてた、幼馴染は結構ナイーブな奴だ。とげのある言葉を言えばすぐに泣いてしまう泣き虫だ。


「なんで泣くんだよ、俺が話しかけても無視してたじゃねぇか!」


ナマエが持っていた漫画を取り上げてベッドの上に押し倒して殴りかかろうとした。昔っから喧嘩するときは俺が上に乗っかって拳を振り上げる、途端にナマエは頭突きや何らかの形で俺に反撃してくる。けど、そのときはちょっと違った。
目の前にナマエがベッドの上で泣いているだけなのに、なぜか胸がどきどきとうるさい。ナマエの姿に、目を離すことができなかった。泣いてる姿なんて見飽きているはずなのに。


「だって、実琴だっていっつもそうじゃん!」


俺が違和感を感じていることを知らずに俺の顔面に拳をめり込ませた。顔にめり込んだ拳の痛みが鼻を中心に鈍く残った。同時にナマエの上に乗っかった時の腹部の感触と表情が忘れられない。黙っていると上から「痛かった?ごめん」と素直に謝る声が聞こえる。


「べ、別に!ナマエ、外に行くぞ!」

「なんで?」

「いいだろ、さっさと準備して来いよ!」


語気を強めに俺はナマエを部屋から追い出した。バクバクしている心臓の音が彼女に聞こえないようにするためだ。今、脳内パニックが生じている中で彼女に出会ったら口からとんでもない言葉が出てきそうだ。長い付き合いでも知られタンクないことってあるだろ。

俺は近くにあるパーカーを羽織って、玄関まで歩いて行った。

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