ただのクラスメートにもなれなかった二人ストーリーはいつも簡単に編み出しているわけじゃない。
男の俺には甘い話なんてやってこないことは一理あるが、俺なりに妄想を繰り広げてもいつも同じ展開になってしまう。そして俺はネタや言葉遣いに詰まった時は他人を参考する。パクリはしない。俺なりに変えている。黙々と花びらを書いている御子柴に話しかけて、新しい短編のネタを探った。
「そういや御子柴、お前は初恋したことあるか」
そう聞くと御子柴はいつものように目を輝かせた後、自慢げに口を開いた。こういうやつが一番扱いやすくていい。悪い意味ではない、なんか、そう、使いやすいんだ。
「ブッホ、なんだ俺の初恋を聞きたいのか野崎!」
「参考程度にな、あ、別にお前のエピソードとかいらないからな」
俺は御子柴の顔色をうかがうことなく、ずばずば聞いていたけれど返答がなくて顔を上げた。扱いやすいと定評の御子柴は少しだけ顔を歪めている。困ったような、言いにくそうな感じだった。断りを入れようとしたら、御子柴はぽつぽつと語り始めた。
「俺の初恋は、まだ続いてんだよ」
「それって初恋っていうのか」
「少し黙ってろ」
話の腰を折る俺にくぎを刺したところで話を進められる。御子柴の口は軽くはなかった。途切れるような語り方だったが、話し始めた時は幸せそうだった。途中で、思い出を脳裏に浮かべてはにかむ。俺はネタとして使えるところを抜粋してネタ帳に記した。
「その幼馴染とは親の許しがなくても家を出入りできる関係なのか」
「なんつーか、親が文句言ったり小言なんて洩らさなかったぜ、アイツが家に入ってくるときは。けど、最近こねぇから…あんまり、その…」
「つまらないのか」
ズバっと切り捨てた。俺はその後の話が気になったのが、幼馴染と言うものは現実的にはそう簡単には進まないらしい。恋愛的、いいや男女関係になるのは難しいんだろうか。俺はふと思い出す、何かきっかけがあるはずだ。
「御子柴、きっかけは何なんだ?」
「きっかけって?」
「幼馴染と決別したきっかけ」
御子柴は俺の言葉に動揺した。これは、御子柴本人が大きなきっかけを作ったんだ、幼馴染は何も悪くない。何も語らなくなってしまった御子柴。俺自身、こんなチャンスはないと思った。もしも俺が提案したネタで幼馴染と言う関係を修復できたら…考えただけで花は枯れることを知らない。俺は御子柴に詰め寄った。
「御子柴」
「ん、な、なんだよ野崎ってか近い!」
「御子柴、俺がお前に幼馴染修復大作戦を編み出そう」
「…はあ?野崎、お前」
そりゃ俺の考えには驚くはずだ。突拍子もないことだし、俺の考えることは大体却下される。なぜかわからないが。だが、これはいける気がする、おっしゃ。
「何も言うな、御子柴。俺がお前のことを全力で応援する、みこりん」
親指を立てて言うと御子柴は苦笑いを浮かべるだけだった。
「決め台詞でみこりん言うな」
そう言ってクッションに顔をうずめて言う「もう、無理なんだよ」と。どんなに深い溝ができたとしても、困っている友人を見過ごすわけにはいかない。まずは、声をかけることから、いいや挨拶することから始めよう。俺は頭の中に広がる妄想と、漫画への投射に幸せいっぱいになった。
御子柴はうなだれているが、できる、きっとこの子ならっ。
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