それが恋だと俺は認めたくない御子柴実琴はただの幼馴染だ。家は隣同士、親同士も仲良し。私は人見知りで、口数が少なくて、すぐに泣いてしまうめんどくさい子供だ。けど、そんなめんどくさい私といつも遊んでくれた御子柴実琴はヒーローだった。
ぴーぴー泣いているときはいじめっ子たちに仕返ししたり私を慰めてくれたり、一人ぼっちでいる時間を少なくするために常に手を握っていた。小学生まではそれが続いていたけど、中学生になってから友達が増えて人前ではそういったことすることがなくなった。空気を読んだのだろう。
「実琴、あのね!」家に帰ってきたタイミングを見計らって、窓から入り込んで実琴と遊んでいた。趣味も大体似ていて、話が通じるし何より気楽だった。めんどくさい私を拒絶することなく、実琴も楽しげに喋っていた。はずだった。
「それでね、この主人公がとっても」
「ナマエ」
「なに?実琴」
「俺、あんまりお前と喋りたくない」
ガツンと硬いゲンノウでたたかれたような感覚が頭に走った。
「っそ、か…はあ?」
そこで引き下がれる人間じゃない。
いきなり喋りたくないってどういうこと、何、私悪いことした?もしかして、実琴に好きな子ができたの?そりゃそれで理由を言えばいいじゃない。その言い方酷い。私は部屋にあったクッションを投げつけた。案の定、実琴の顔面にクリティカルヒットする。
「ってーな!何すんだよナマエ!」
「実琴のばか!そんな言い方ないじゃん、私のこと嫌いならはっきり言えばいいじゃん」
泣きながら言った気がする。私はぐしゃぐしゃになった顔を見せるのが嫌になって窓を伝って逃げた。背後で実琴の声が聞こえたけどもう知らない。
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