その他長編 | ナノ


冬恋ワルツ

家の中に居てもつまらなくて、兄に頼んで小旅行に連れて行ってもらうことにした。兄にとってどうでもいいことが私には驚きの発見。冬島で、吹雪いているのにも関わらずすごい人通り。これが普通らしい。きゃっきゃ喜んでいると、兄とはぐれてしまった。やってしまった。あっちこっち見ているけど兄は見えない。

歩き彷徨っていると、ドンと誰かにぶつかった。つるつる路面だから仕方がない。顔を上げると金髪の男の人だった、片方の眉毛は不思議形をしていて、口には煙草をくわえていた。

驚いたような声を上げた途端、男の人は「すまない、レディ。お怪我はありませんか」と紳士なそぶりを見せてくれた。「大丈夫です、ありがとう」と言うと、目をハートにして近寄ってきた。そんなとき、誰かが走ってきた足音が聞こえた。振り向くとそこにはルフィさん。と、私の旦那。


「おおっお前はナマエじゃねぇか!久しぶりだなっ」

「そうですね、ルフィさん。あの、ウチの旦那が追いかけてるようなんだけど」

「えっこのスウィートガールは煙野郎の奥さん!?」

「あ、そうです」


絶叫が聞こえて、金髪の紳士に離されたところで誰かが私の手を引っ張った。
ルフィさんと金髪の紳士は走って逃げていったけれど、旦那が追いかけている姿がない。自分の手を引っ張ったのは旦那か。そう思って顔を上げる。久しぶりに見るスモーカーさんの顔はどこか、疲れていて、けど、大人っぽくなっていた。


「久しぶりですね。私、たまたま」

「喋んな、少しムードってもん知りやがれ」

「小旅行に来たんです、だからまだ時間ありますから」

「そんくらいじゃ足りねぇよバカ、あーやっぱ子供の体温はあったけぇな」


それは私の体温じゃなくて、今あなたが走っていた時の体温じゃないの?

なんて言葉を返してあげようと思った。だけど私はその言葉を飲み込んでぎゅっと旦那に抱き付いた。周りで冷やかしの拍手に言葉が聞こえる、私はそれをも幸せに感じながらスモーカーの香りを楽しんだ。スモーカーはわたしより強い力で抱きしめて耳元でささやいた。

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