その他長編 | ナノ


秋陽アルペジオ

彼に送る手紙を黙々と描いていると、火にかけていたジャムを入れた鍋を焦がしてしまった。せっかくおいしそうなイチゴジャムが作れると思ったのに。日持ちするものなら、彼に送ることだってできる。私が待っていると伝えるためにできることと言ったら、こんなことしかないから。先月はブルーベリーのジャムを作って送ったところ、おいしくいただいたと、後輩からも手紙をいただいた。


「よし、書けた」


赤色のチェック柄の便箋に、押し花にしたシールを同封する。気づけばもう、秋だ。彼が家に帰ってこなくて、何日になるだろうか、数えるだけ無駄だ。彼の仕事は体を張るものだから、帰ってくるのも一苦労なんだから。

秋の季節になると、思い出してしまうことがある。

彼と出会って間もないころの出来事。たまたま町へ出ていた時、一人の少年に出会った。その少年は黒い髪の毛で、目はくりくりっとしていて麦わら帽子をかぶっていた。おなかが減っているのか、道端で倒れて、盛大におなかを鳴らしていた。私は持っていたリンゴを差し出すと、むしゃむしゃと力なく食べてだんだんスピードを上げてすべてをたった数秒で胃の中へとつめた。


「お腹がすいていらっしゃるんですか」


私はそう聞いて、自分の失態に気づいた。
この人、海賊だ。目の下に傷があるし、働いているとは思えないその身なりに私は一歩下がる。


「おう、すっげぇ腹減ってんだ、なんか食わせてくれ!」

「ええっと…その」


言葉を選んでいる間にも大きな空腹を知らせる音が響いた。ぐぅぐぅと空腹を知らせているのにもかかわらず、私が放っておくのも無情すぎる。私はうまく笑えているだろうか。黒い髪の毛の男の子に手を伸ばして、声をかけた。


「上手なものは作れませんが、どうぞ私の家にいらしてください」

「ほんとか!おおっありがとう!」


その少年の名前はルフィと言った。どこかで聞いたような名前だったけど、まあ、いいか。家まで招待して食事の準備をしているときにいろいろな島の話を聞いた。どこでどんな食事を食べたか、どんなアクシデントがあったか。面白かったのは空島の話だった。兄からも、旦那からも聞いたことがない話にうっとりしていると食事が出来上がった。


「どうぞ、ルフィさん。召し上がってください」

「おおっうまそうだな!いただきます」


ずるずると口の中に吸い込まれていく食事に嬉しさがこみ上げてきた。誰かに自分が作ったものを食べてくれる機会なんてなかったからだ。心の中がぽかぽかしているときに、郵便が届いたらしく、配達の青年が声をかけてくれた。


「ルフィさん、食べててください、郵便物を取ってきますから」

「そうか!食べてるからいいぞ」

エプロンを脱いで玄関へかけていくと、青年の手には郵便物と花束があった。花束なんて誰が送ってくれたんだろう、あいさつすると、青年は顔を赤らめて私に花束を先に渡した。

「あら、どうしたの?花束なんて嬉しいわ」

「か、母さんが持っていけって。その、今日はあなたの誕生日だって」

「ありがとう、とっても嬉しいわ」

青年から花束を受け取って喜んでいると、手紙をもらうのを忘れてしまった。手紙を受け取って青年は赤い顔をして頭を下げて去って行った。私は手紙を開けながら開いていると、ルフィさんは「何見てんだ?」と話しかけ、覗く。

「旦那からの手紙よ、四季おりおりにしか来ないけどね」

「ふーん、でもお前嬉しそうだな。飯、ご馳走様でした。これ、お代になるかどうかわかんねーけど置いておくな」と、ルフィさんは私の手の中に金物を握らせた。開いてみると、本物のルビー、サファイア、エメラルド、ターコイズのアクセサリーだった。