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女の子は誰でも綺麗になりたいと思う。
それが恋する乙女なら専らそうだ。
整えられた眉毛に、ピンク色の小麦粉をかけられたようなアイシャドウ。バッサバサなマスカラは嫌いだから、ふんわりとまとまって可愛らしくカールがかかるマスカラを付ける。頬には木苺を潰したような、けれど控えめな色を散らして、口紅はみずみずしくて触りたくなるようなふっくらとさせる。
ルームシェアをしている森山先輩が私の部屋に入ってきた。
髪の毛を可愛らしくアレンジしてあげると言って、そっとそれほど長くもない髪の毛をひと房救って櫛をとおした。くせ毛なのですぐに絡まってしまう。先輩はそれを可愛いと言ってなめらかに梳かしていった。
鏡に映る私が化粧した姿、うまくできていると褒めたくなるけれど、笠松先輩は私のこと、きっと見てくれない。
そっと人差し指ではみ出た口紅を拭き取った、鏡に映っている独りよがりの私がひどく際立って見えた。
「笠松はどうやったら振り向いてくれるかなって考えてた?」
「っ、森山先輩。あの、なんで」
どうして、私が笠松先輩が好きだって知ってるんですか。そう言おうとしたら、鏡に映っている森山先輩が悲しい表情を浮かべていた。化粧台に備え付けてあるこの鏡越しに森山先輩が視線で何かを訴えてくるけれど、私にはわからない。分かりたくないのかもしれない。
ぷいっとそっぽを向くとあまり痛くない程度で髪の毛を引っ張る。
「こら、先輩の質問を無視しないの。ナマエちゃんの悩みは笠松のことでいっぱいなんでしょ」
眉間にしわを寄せて梳かしていただろう私の髪の毛を、先輩はそっと唇をつけた。その仕草に私はドキリと胸を躍らせる。
あまり男性経験がない私には、十分すぎる行為だった。
「あ、の」
「あー大丈夫、俺怒らないから。それくらいで」
「…」
「で、笠松とどこまで進んだの?やっぱりまだ話すら出来てない感じ?」
「…」
「もしかして気にかけてもらえて…」
「馬鹿にしてます?」
泣きそうになってきたので必死に涙をこらえた。化粧を崩さないように下を向いた。かわかない涙に心底嫌気がさす。涙なんて毎日流してる、森山先輩の目の前で流すなんて恥ずかしい。背後にいるから、完璧泣いているのはバレている。涙を見せないのが私の意地。
「…その口紅も俺は気に入らない」
「え」
そう言った瞬間化粧台に置かれていた化粧道具殆どが吹っ飛んだ。
森山先輩がいきなり化粧台に置かれていたものを全てなぎ払ったのだ。こんなにも激昂している森山先輩は。初めて見た。
「ナチュラルなマスカラも、薄いピンク色のチークも。夏目ちゃんが笠松のことが好きだっていうことも」
「っ、森山、せんぱっ」
「俺にしてくれない?もう、諦めて俺だけをずっと見ててよ」
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