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俺と同学年の、コイツ、木吉鉄平は一言で言うなら変人、に限りない。今だってそうだ、部室でバインダーの上に便箋を張って思いふけっては書き記し、悩んでは猛烈に書いての繰り返しだった。部員のほとんどがいるこの空間で木吉は構わず何をしているのか気になったので聞こうとした。だが、聞いたらそれはそれでめんどくさいことに巻き込まれることは百も承知。
だが、気になって気になって仕方がない。思い切って俺は聞いた。
「木吉、なにしてんだ」
まずは、当たり障りのないそっけない態度で聞いて見ると、木吉は顔を一度あげたがすぐに文面に向かった。それほど熱心にするものらしい。
「んー?ナマエへのラブレターを書いているんだ」
「ふーん」
「…」
静寂に包まれたと思った、俺はそう願った。だが木吉の返事にはどうも引っかかるものだった。誰にラブレターなんだ?ナマエだと、それは俺と同じクラスの、いいや、おんなじ部活の敏腕マネージャーじゃねえかよ。理解に苦しむ自分、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「…はあ?」
「ちょ、まて、ナマエにラブレターってしかもちょ、部室で?普通一人になりたいだろうが」
コガが何度も聞きなおしているのに、微動だにしない。ただずっと文面と向き合って試行錯誤している。木吉はバカじゃない、だが気持ちが押し寄せるから手に負えないのかもしれない。…買いかぶり過ぎか、水戸部は心配層に木吉を見つめているが、当本人が目を丸くして、口をだらしなく開けている。
「そうか?」
「そうなんだよ普通は!てか、ナマエってフリーだったか?」
「大丈夫だ」
「どこからその自信が湧いてくるんだ」
「自信がなくて地震が起きた…きたコレ!」
「伊月、黙ってろ」
木吉のペースに乗せられて、俺たちは何故か和やかにアイディアを出し合っている。よって先程まで難攻不落だったラブレターは着々と進んでいる。俺はスポーツバックの中から雑誌を取り出してロッカーの中にぶち込んだ。
ガラっといきなり男子更衣室の扉が開いた、まさかナマエじゃねぇだろうな。冷や汗を以上にかきながら振り向くとそこには色気のない監督、間違った、リコがいた。よかった。はあっと部員全員が安堵のため息を吐くと、リコは不満そうだ。
「ちょっとうるさいんだけど、何してんの」
「うぉ!リコか!…」
木吉も驚いたらしく、普段落ち着いた表情が少しだけ崩れた。リコは持ってきたモノを各自に配り始めた、ナマエがやるはずの仕事をやっているということは体育館をモップがけしているみたいだ。
じーっと部員がリコの顔を見ていると、リコが顔力威圧。へつらう部員の中から俺を引き抜いて「さっさと理由を言え」と言わんばかりの目。
「なによ。そんな顔して」
「な、なぁ。ナマエって今フリーだよな?」
「え、ああ、確かいないって言ってたわね。でもなんでそんなこと聞くの?」
「いや、木吉が」
俺の口から言うのも木吉に申し分ない。だが、俺が尻切れトンボになるとリコは察したらしい。女のカンってやつは時に役に立つ。火神が自主練習から帰ってきたのでリコは余ったモノを渡した。
「鉄平、あんまりナマエが嫌がることしちゃダメよ」
「は?」
言葉を聞くとリコも知っているようだ。隠していたラブレターは取り出してもう一度書き直している木吉。火神は空気読めずに着替え始めていた、そういや…黒子はどこに行った。
伊月はリコが言った言葉を鸚鵡返しするのではなく、質問で返した。
「リコ、それってどういうことだ?」
「だから言葉の意味そのままよ」
「嫌がるって、木吉」
「と、いうよりは辱めていることばかりしてるわ」
「は?木吉が猛アタックしてるってことか?」
「そーよ」
なら、ラブレターなんて必要ねえじゃねえか!なんかもう、木吉のせいで全てにおいて疲れた気がする。
そんな時だった、男子更衣室がノックされた。多分…こんなふうに丁寧に部屋に入ってくるのはナマエだけだ。恐る恐る開けられた扉の向こうには小動物のように怯えた女だった。
俺たちが振り返ると、ビクっと肩をはねあげて何度も謝り始めた。
「リコちゃん、あのね全部お片づけしたんだけど…」
「お、ナマエ!」
一番手に反応したのは木吉だった。まるで飼い主を待っていた犬のように、あいつの場合大型犬だ。ナマエは真っ赤になり、木吉が近づいてくるに連れて後退する。どこからどう見たって嫌がってるじゃねえか。ある意味最強だ、木吉は。俺たちは木吉が途中放棄したラブレターを無言で片付けた。
「わわっき、きよ、木吉くん」
ナマエはリコにアイコンタクトするが知らないフリを通している。薄情ものと言わんばかりの顔つきになってきた、俺の方にも視線を送るが、そっとそらしておく。
木吉は子犬のような声音でナマエにすがった。
「そんな嫌がられると俺の流石に凹むな」
「っ…ごめんなさい」
「騙されてる、騙されてるぞっナマエ!」
「え」
「じゃあ俺の返事はオッケイでいいよな?」
「?うん」
「案の定騙されてる!?」
「え、なんの返事?木吉くん?」
状況もわかっていないのに返事するお前が悪いと思ったのは自然だった。
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