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「ファイ、眠れないの?」と、声をかけると寝たふりをしていたファイは起き上って私をじっと見る。

うつぶせで苦しそうに寝ている姿から一遍、いつもと変わらないスマートな彼の姿。ファイは私と視線を合わせると泣き出しそうに顔を歪めて飛びついてきた。最初のころは驚いたけれど今になってはもう慣れたことだった。抱きしめ返すと、ファイは細い腕でもっときつく抱きしめる。どうやら、私はファイのお母さんに顔が似ているんだと。


性格は違うのに、でも顔と体は同じなんだと寂しそうに言っていたことをもいだした。


「ファイ、怖くないよ。悲しいことなんて一つもないよ」

「嘘つかないで、みんな、みんな俺のせいだ」


「あなたに価値があるからそうしたのよ」とは言えなかった。

言ったとして、彼にはきっと届かない。変なところで臆病で頑固だから。できることと言ったら、彼を抱きしめて頭をなでてあげるだけ。簡単そうに見えて、実は簡単じゃないんだ。

自分の大事な人を殺した人間に似ているから、心の中で、私は何度もファイを殺した。


「みんな、俺のせいで傷ついてしまう」


やさしい魔術師なのか、それとも悪い魔術師なのか、旅をしていくうちにわかってきたのに、私の記憶というものはこの世界にはいないファイに似た彼が憎い。
口から出る言葉は慎重さを孕んでいる、きっと黒鋼も気づいているんだろうな。


「俺が存在しなかったら、よかったのに」

「そんなことない」

「ナマエちゃんだってそう思わない?俺がいるから、みんな、怪我をしてしまったんだよ」

「でも、だれも貴方のことは責めてないわ」


誰もファイのことは責めないよ、とは言っているけれど心の中で私は叫んだ。


「貴方が彼を殺したアイツに似ていなければ、もっと優しく接してあげられたの」と、理不尽なことを。

金髪は私のほほをくすぐって、すすり泣く声は私の鼓膜を障る。

「ねえ、ファイ」と私話しかける。

ファイは「なに?」と聞き返す。


「一緒に死のうか」とお誘いしたらどうなるかな。

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