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目の前にはテーブルの上にたくさん食事が置かれているのを難なく口に運ぶ男がいる。その姿を見ていると食欲まで吸い取られているような気がしてならない。こんなに豪華な食事を口に入れずに帰ってしまう自信がある。だが「食べなければ殺す」と言われているのでしぶしぶ私は目の前にあるラザニアをスプーンで掬って咀嚼した。やはり味付けはいいが、食材は一級品ではない。口の中をもぐもぐとかみながら目の前の男は、私を見つめる。

私の顔になにか付いているのか?と疑問に思い少しだけ目を細めると男は満足そうに笑った。


「君があの有名な情報屋か〜以外に凡庸な人だネ」


そっとスプーンから口を離して今一度、言葉を頭の中でリピートさせた。この男は私のことを幕府お抱えの情報屋という秘密を知っている。危険因子だ。私は話をそらそうとスプーンを右側において口を拭く。


「摂食しながら会話することが不躾だということは知らないのか」

「へぇ、そんな口を叩くんだ」


わあ、面白い。

なんて思ってもないくせして、そんな言葉をぺらぺらと喋る男に私は顔を歪めた。テーブルに肘をついて手を組み、私は赤毛の男に「で、君は一体何者なのかな?拉致監禁の上に毒味させたものじゃない食事を出させるなんて君の考えていること、やっていることは不思議で堪らないよ」と話しかけた。


大皿に乗った食事をごくりと飲み干して、テーブルの上に皿を戻したとたん、男はにこにこと張り付いた笑顔で私に言葉を返した。


「思ったよりミョウジナマエさんは厳しいや、ごめんね、拉致監禁させて。わざとじゃないんだヨ、君が結構暴れるようだったからネ」

「私に何をご所望ですか」

「俺の女になって子供を産んでヨ」

「解せぬ」


即答した瞬間、男はまた嬉しそうに笑顔になって「そうこなくっちゃ」と言いやがった。

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