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太陽が沈むと共に私の部屋は、赤く染まっていく。暑い夏、加えてしつこい湿気、べたつく汗、どんな対処をとってもすっきりしないこの状況下で私と沖田総悟はとあるカフェで一杯紅茶を飲んでいる。誘ったのはこの目の前で優々とミルクティーを飲んでいる沖田総悟だ、少しだけぬるくなってしまった私のレモンティーは苦味を感じる。
ゴクリ、と嚥下したあとに淡々と語られた話の内容を聞いていると次第に眉間にしわが寄ってきた。

マズイな、ポーカーフェイスで気取っていたんだけど無理のようだ、不可能を可能にしたいと希望をもつような少年少女じゃない私はバッサリ切り捨てた。


「非合理的な話は嫌いだ、そこから出て行ってくれ」

「ナマエさん、そこをなんとかして下せェ」


おかわりを頼んだ沖田総悟は、赤い瞳を私に見せつけながら願った。通り過ぎていくウエイトレスは私たちのことをどう思っているんだろう、と、ふざけているとガツっと弁慶を蹴られた。涙をうっすら浮かべながら私はもう一度言う。


「情報屋の私に時間を無駄に過ごせということと同じだ、これだけは言っておく。真選組の技量で見廻組を追跡するなど無謀だ。お茶代はそちらもちでヨロシク」

「だから“ナマエ”さんに頼んでるじゃないですかィ。情報屋の腕利き、ミョウジナマエサン。右に出る者はいないじゃないっすかィ」

「ン?意味わかんないんだけど」


おかわりが来たところで私はウエイトレスに私にもおかわりをと頼むと営業スマイルですぐに去っていった。歩き方と手のひらの色具合から見て緊張していたんだろうな、あのウエイトレス。ふぅん、私たちが別れ話をしているように思われたのか。確かに目の前にいるのはかの有名な真選組の矛、沖田総悟。


「ナマエさん、素敵なんだけど」

「死ね、沖田。褒めて出させる作戦は考えから除外したほうがいい。ぎゃくに神経を逆なでする」


私は運ばれたレモンティーをすぐに飲み干して店を出る。追いかけてこないだろうと思っていたら、直ぐに走ってきた。それほど情報にすがっているようだ、真選組ならば山崎という有能な監察がいるのに使えないということ…なにか差止めされてるな。早歩きで私のとなりを歩いている沖田。


「ミョウジくーん、意外にひどいこと言いまさァ。俺のロンリーハートはボロボロでィ」


なにがロンリーハートだ、お前の場合はブロークンハートだっつーの。右の方に垂れてきた汗を人差し指で弾いた。全く汗が止まらなくて嫌になる、歩いている速度をはやめるがなかなか出遅れない沖田。


「利己的な話以外、私はしたくない」

「っなんなら出没先とか、そういうところを教えて下せェ」

「教えたところで真選組君たちは何をする?戦いに行くなら生死をさまよう話になる、情報をのうのうと明け渡したとき私のせいになるのは絶対嫌だ」

「俺たちはあんたが考えているよりはちょっとはマシに動く。攻めるのは慣れてるんでねィ」

「だが、ひとつだけ条件をクリアしてくれるなら私は許可しよう」

「なんですかィ」

「土方と近藤を呼んでちょうだい」

「…」


そう言うと、ぎゅっと腕を握られた。止まって振り返るとギラギラと獣のような目つきをしている沖田が、殺気を出し始めた。地雷を踏んでしまったなと自嘲気味に笑ってみるともっと殺気がにじみ出ている。


「単独行動なのだろう?それくらいこちらは読めてる」

「…じゃあ俺でどうですかィ?」


ぐらりと揺れる体制に目をつぶった、恐る恐る開いてみると沖田が私の背中に手で支えて人差し指で私の顎をクイっと上げた。気持ち悪い、そう思って振りほどいてみると「っチ」っと舌打ちが聞こえた。


「戯れごとは他の雌猫としておけばいいさ、私は男に興味ない」


切り捨てた言い方をすると、一度沖田は目を見開いて私の顔をまじまじと見つめる。
なんなんだ、こいつ。釈然としない私に小さく呟いた。


「…女紹介しまさァ」


その思想はあながち間違いではない、おしゃべりな女がいれば情報は引き出せる。


「男の次は女か、健気だねぇ。亡くなった隊士のために尽力を尽くすか」

「わかってるなら、むしろ教えてもいいんじゃないんですかィ」

「価値のない行動は慎め、お前はたったひとりの隊長だ」

「…」

「無茶する奴は嫌いじゃないよ」

「っ!じゃあ遠慮なく期待させてもらいまさァ」

「おい、勘違いするなっそういうことじゃない!」

「照れなくていいでさァ」


何故か頬が熱くなるので私は見破られないように足早にさった。

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