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「地獄もそうですけど裁判って長いですよね」

「何を今更言っているんですか。口より手を動かしてください」

「動かしてますよ、二刀流です」と、減らず口を叩いたら金棒で鬼灯様は私の頭をゴツンと叩いた。

この金棒を投げ飛ばして色々な人に当てていると聞いたけど、これを投げ込まれて当たったらどこかは骨折すると思う。獄卒は丈夫にできているんだな。右手で筆を走らせていると、今日裁判にかけられた亡者を思い出した。


「鬼灯様」

「何ですか、鬱陶しい。構って欲しいんだったらその積み重なった書類を片付けてからにしてください」


チッと盛大に舌打ちと睨みをきかせて私に言う。鬼灯様は三連続徹夜だから苛立ちも最高潮なんだろう、閻魔様、どうか私の上司を休ませてあげてください。
一字一句間違えないように私は文字を書き記すと同時に口も開く。


「今日、裁判にかけられていた女性、鬼灯様の好みでしたよね」

「…何ですか、急に。私の好みの話を持ち上げても恋愛話には花は咲きません」

「そうじゃなくて、鬼灯様」


こういったところはなかなか、踏む込ませてくれないんだよなぁ、鬼灯様は。
直下の部下である私は彼の姿を見てきて思い知らされた。

自分の過去ですら、口を開きたくない性分なんだ。


「鬼灯様もいい歳なんですから結婚とか考えてください」

「上司が結婚しないと部下は結婚しづらいんですよ」と冗談交じりに言ってみた。カラカラ笑っている私に対して、鬼灯様は一度も顔を上げない。

私の話なんて無視ですか、諦めたように深い吐息をすると、寝息が聞こえた。違った、上司は緊張の糸が切れたんだろう、寝落ちしてしまった。立ち上がって羽織を鬼灯様の肩にかけた。


「おやすみなさい、鬼灯様」

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