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化粧もしていないのに、表情を作れば美しいその彼女に俺は惚れてしまった。


仕事とプライベートは分けているつもりだったのに、いつの間にか俺は彼女の虜になっていた。彼女が来る時間が近づいてきたら、わざと照明は少なくして、ムードを作る。
彼女は仕事を終えると決まってこの時間に店に来て、エンジェルキッスっていう甘いカクテルを頼む。セクシーな首筋に俺は自然と目がいく。息をするのも苦しくなってきた。


「何度口説いたら落ちてくれる?」


俺は使ったグラスを拭いて丁寧にケースへしまっていく。

閉店時間が迫っているのに彼女はのんびりとエンジェルキッスを飲んで、ほんの少しだけ残ったクラッカーをつまんだ。
唇についたクラッカーの粉をなめとってやりたい衝動に駆られるが、ここで手を出したら絶対に嫌われると予測できている。


「庵さん、私結構あなたのこと好きよ?」


次に引き寄せられたのは彼女の指、グロスリップに触れないようにクラッカーの粉を拭きとっている。
どうせまた、唇に塗るのにそんな細かいことしなくていいじゃないかといいたくなる。背中を向けながら俺は言葉を返した。


「その割にはデートしてくれないよな、俺と」


子供のように、言葉の意味をひっくり返して下品にほじくると、彼女のほうから鞄をあさるような音が聞こえた。もう、帰ってしまうんだろうか。心の中の焦りと、俺の行動は合致しない。


「…このままの関係の方が自由が効くの」


ぱちんと、後ろから音がする、財布が開けられた音だ。
頭の中で「動け動け」と何度も命令を出す。やっと動いた時には、彼女の細い手首をつかんでいた。つかんだ手首をそのまま俺のほうに引き寄せて唇を落とした。


「推戴を曝すことがないお前と今宵は共に過ごしたい」

「心にもないおべっかを言うなんて職業上見についたの?」

「好きな女を落とすためになら、俺は諦めない。沢山潰えても俺は悔やまない」

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