log | ナノ
「これは俺にとって人生最大の驚愕な話だよ、この俺が、人を愛していた俺が、本気で愛したがるなんてっ、ねえこの歓喜に満ち溢れている俺は君の瞳にどう映っているのか聞きたいんだけど、あれ、生きてる?あーっ生きているよね、そうでなくっちゃ!ネクロフィリアじゃないんだよ、俺は。勘違いしないでね」

「…あなた、誰」



三十分前の話に戻ろう。


変わらない日常を私は十分に満喫していた。いつものように某ハンバーガーショップへ入店し、メニューを見て商品を購入。そのあとに一人で座れる席を探してカバンを膝の上に置く。手にとった古ぼけている本は未だ万巻に到らず。グズグズになったバニラシェイクを啜って外を見ると誰もが忙しそうに足を動かし、前を見ない。足元ばかり見ていたり、人の顔を見ていたりと、彼らはどこへ進むのかわからない。人間観察という非常に悪趣味だと思われることをしていたら、底をついてしまったバニラシェイクの紙コップ。べこべこと湿り気を帯びたそれを私は手から離して何気なく携帯を取り出そうとしたら誰かが私の手を止めた。


私の手を止めたのは全身黒っぽい色の服を身にまとった男。「離してください」と言うと、ニヤリと笑ってそのまま私を店の外へと連れ出した。

キチガイの男にあたってしまった、男運がない私にはまぁ、どうってことない話だと思う。


連れ込まれた場所は見慣れないマンションの最上階。頭がパッパラパーなのにお金とその眉目秀麗な顔立ちを所持していることに、胡散臭さを増した。男の部屋だろうと思われる場所に移動すると、唐突に愛について語り始めた。


冒頭に戻る。




「俺のことわからないのも無理はないね、と言いたいところだけど俺と君は何度もあったことはあるんだよ」


ストーカー気質な言葉を連ねる男。私はこれは今まで出会ってきた男の中で最上級に危ないやつだと確信した。心のどこかで非日常を望んでいた私にチャンスが現れた、とポジティブに考える余裕すらない。

私は男から一歩遠ざける。


「近寄らないで、警察呼びますよ」


バックから携帯を出そうとすると、また、男は私の行動を阻む。どこまで私を翻弄させるつもりだ。キッと強めに睨んでも男の薄気味悪い笑は変わらない。


「ははっこんなにも俺が愛しているのに、警察という野暮な輩まで呼びつけるとは君は結構恥ずかしがり屋なんだね。おかしいな、情報といささかズレがある。これはすぐに直さなくちゃっ」


なぜかその男の口調は楽しそうだ。


「…気持ち悪い」


咄嗟に出てしまった言葉に、ぴくりと反応を示した。薄気味悪い笑はどこかへ捨て去られて無表情だけが生き残っている。禁止ワードだったのなら謝ろうと思うが、相手が相手だ。謝った末になにかされるんじゃないか自分の身の危険を感じる。
男は私の足を引っ掛けて床に押し倒す、これはどこかで見たドラマのワンシーンのよう。


「んー?聞きたくないな、その言葉」


背けたくなる現実に直面した私は、慌てて声を出した。


「なんで、服を破るんですか、何の目的なんですか」

「だからズレを直すために君をすみずみまで調べあげようとしてるんだよ、今の言葉の意味、君には理解し難かったかな」


キャパシティーオーバーの状態。危険危険、ここから逃げたほうがいい。抵抗するけれど相手は余裕の笑。危険危険、このままでは殺される。

「やめっ」

「ああ、言っとくけど君が大事にしているドタチンは、君がどこで誰とどうしているかなんて露程も知らないから。安心して」


頭の中に炸裂する危険危険、という警報は鳴り止まない。


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