log | ナノ
一日一回、出動命令が出る。

けど今日は違った、ナマエと出かけていて二度も出動命令。銀行強盗に立てこもり。結局、僕が出るのは裏方サポートで、タイガーさんとバーナビーさんが活躍していた。この数分、数十分の間にナマエに何かあったらどうしようと考えるのは、やっぱりおかしいかな。ぼんやりと、そんなことを考えていたら事故や怪我に繋がる。

だめだ、仕事に集中しなきゃ。


ナマエはいくつか不審な点がある。
記憶喪失と言っても過言ではないところもある、けど、僕たちの存在を知りすぎているところだってある。英文が読めないのは、日本人だから仕方がないと思っていたけど、タイガーさん曰く、小学生の時から英語は学ぶものだから、読めてもおかしくないと言っていた。また、慣れない動きで乗り物に乗っている姿を見て、全くの別世界から来たんじゃないか。と思うくらい、不審な点がある。


いつか、きっと僕を信用してくれた時喋ってくれればいいと思っている反面、今すぐしゃべってくれないと、逃げてしまうんじゃないかという恐怖心が背筋から這い上がる。
仕事を終えて、彼女を待たせていた公共施設へ行く。
全力疾走していたから頬に汗が伝い、息が荒くなる。



たどり着いたのに、彼女はそこに居なかった。どうしよう、逃げられたのかな、それとも連れ去られちゃったのかな。どうしよう、彼女がいなきゃ、僕は。でも、なんでこんなに必死になってるんだろう。アニエスさんに頼まれたから?だからこんなに、頭の中が真っ白になるの?でも、こんなときならタイガーさんとか、スカイハイさんに応援を頼めばいいのに、僕自身が望まない。


いきなり誰かに腕をつかまれた。驚いて大声をあげてしまった、ゆっくり腕をつかんだ相手を見るために顔を動かす、そこには黒髪の女の子。ナマエがいた。ナマエも汗をかいている。


「イワンさんっちょ、待って」


運動不足なのか、彼女も息切れしている。何処からか走ってきたのか。


「ナマエ、なんで、え?」

「イワン、さん、待ち合わせの場所、通り過ぎて走っていくから、追いかけてきたんです」

「ん、あっ!ごめん、僕が間違ってた」


赤い椅子で待っていて、と言っていのは僕の方だった。赤い椅子がある場所を通り過ぎて、勘違いをして、青い椅子がある場所まで走っていたんだ。うわ、恥ずかしい。
顔を赤らめてその場にしゃがみ込む、彼女はぎょっとして「もしかし、私が間違えてましたか?」と聞いてくるけど、それを返事する余裕もない。

どうしよう、僕は彼女のことが。


「イワンさん、疲れちゃいましたね、二人で、別なところで走ってましたから」


好きなんだ。


「飲み物、買ってきましょうか?それとも、帰りますか?」


心底、彼女に惚れてるんだ。


「イワンさん、具合が悪いんですか?」


初めて会ったときは何とでもなかったのに、いつからか、僕は彼女が好きになってる。秘密が多くて、不器用で、僕の言うことを忘れちゃう、そんな怪しくて愛らしい彼女に恋慕を抱いてる。
彼女から声を掛けなくなって、僕はそっと顔を上げる。そこには彼女がいなかった。あれ、先ほどまでのは幻聴だったのかな。突如、僕の目の前が陰った。振り向くと、両手に飲み物を持っている彼女がいた。


「まずは、休みましょう」


無邪気に笑う彼女に、僕が好きって伝えたら、もう笑ってくれない気がした。
僕は手渡された飲み物に口を付けた、紅茶の味が舌に残る。近くにある青い椅子に座って、僕の隣に座る彼女を盗み見た。頬は少しだけ赤くなっていて汗がじわりとにじんでいる。飲み物を飲むたびに動く喉を見て、僕は恥ずかしくなる。うまく、いかない。


「イワン、さん?あの、もしかして嫌でしたか、紅茶」

「そうじゃないよ、ただ単に僕が君を見ていただけだから」


つい、本音が出てしまった。ナマエの反応を見ようとしたら、彼女は立ち上がる。


「イワンさんは意地悪ですね」

「僕のどこが意地悪?事実を言っただけだよ」

「どんな女性にもそういった態度をとるんですか」

「そんなことない。僕に嫉妬してるの?」

「飛躍しすぎです、私が言いたいのは」


彼女が言いかけた時、僕は彼女の片手をつかんで、その場から早く立ち去ろうとした。顔を赤らめて僕がちょっとだけ鎌をかけただけなのに過剰に反応して答える姿が理性を崩す。紅茶を片手に僕は彼女の手も引っ張って出入り口へと足を進める。

月が満ちるまで手は離さない。彼女は無言で僕についてくる。時々、歩きながら紅茶をストローですする音が聞こえる。何処までも能天気な彼女に僕は振り返って言ってやった。


「僕から離れないで。言っておくけど僕はこんなに長くしゃべることなんてないし、感情的なったりするなんてあんまりないから。女の子なんて以ての外だから」

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