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「綺麗」


正直な感想、本当に綺麗だ。無造作に生えている睫毛も、閉じられたまぶたの上のなめらかそうな凹みも、分厚くも薄くもない吸い込まれそうな唇も、白くて透き通るような肌色も、絹のような髪の毛も。私にはひとつも持っていない美しさを彼は全部持っている。
彼にとって寝ている姿がこんなにも美しいなんて恥ずかしいかもしれない。一方で私の触れたいという欲すら禁忌ではないかと思う。


「何が綺麗なの?ナマエ」

「起きてたんですね、イワンさん」

「…忍者は眠らないんだ。で、ナマエ、どうして綺麗なんて言ったの?」

「イワンさんの寝顔が綺麗だから実直に発言しました」

「僕、男なんだけど」

「けど綺麗です」


不満げな顔をするイワンさんも綺麗。畳の上に、腕枕をして昼寝をしていた彼は上半身だけを起こして私の方をギリっと睨みつける。怖くなって顔をうつむかせると小さく舌打ちをする。最近思うんだが、彼は初めて出会った時より正確がこじれてきたというか、ねじ曲がってきたような気がする。柔和だった表情も厳しい表情ばかり見せる。
紫色のスカジャンを脱いで、私の頭の上からすっぽりかぶせる。暗くなった自分の視界にゆっくりと顔を上げるとイワンさんは私の額に額を合わせた。


「日本人の君はもっと綺麗だ。漆黒の髪の毛に、その瞳」


目をつぶらず、じっと観察するように私の顔を見る。ひとつひとつ残らず、スカジャンの影で暗くなっているはずなのに、彼の瞳だけは宝石のように輝いて見えた。

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