log | ナノ
自分の相棒の心理状況くらい把握してる。
どんな時だって、つんけんしている野郎でも、わかっちまうんだな、これまた。
シュートは外さないけど、練習中に時折切なげな顔になったり、眉間にしわを寄せていたり、そんな感じ。ボールを両手で握りしめて時折誰かの名前を呟いているけど、はっきり越えなくて俺は聞き出そうにも聞き出せなかった。あんな顔にさせる女はどんな相手か詮索する野暮な人間じゃない、俺は。
だが最近は変わった。ウィンターカップを終えてから落ち着いたのか、よくわからないけどボールを見つめるその眼差しがやさしくなった。幸せそうな感じがした。
ここで、聞くべきなんだろうか。「なにか、うれしいことでもあったのか」なんて、親しげに。
自主練も終えて、俺は相棒に近寄ってじゃんけんをしようと話を持ち掛けた。けれど相棒は首を横に振って「今日は、いい」と、顔を赤く染めて言う。
なにがあった、熱か。我が高校のバスケ部エースが熱で倒れたら、考えるだけで顔面蒼白。頑固な奴だから、加護したらしたで余計にめんどくさくなる。悶々と熟考していると、校門を出た途端に声をかけられた。
「真太郎、約束通り迎えに来た」
白い帽子をかぶって、薄っぺらい黒いコートを着用している女性に俺の相棒が呼び止められた。相棒と似て、鋭い目つきに気品あふれる顔つき。姉か、と思ったけど相棒には姉はいないはず。じゃあ、いとことか?
「すまない、待たせたな」
「長い時間待つのは恥ずかしいものね」
「いつも俺がされていることをようやく学んだか」
「もうしないわ」
「えっと、誰?」
俺より断然、親しげに会話をしている相棒と女性。
ちょっと待て、よく考えると相棒がいつもぶつぶつ言っていた名前とか、行動とか、意味深な発言は目の前にいる女性のためのものかもしれない。四つの目が俺を射抜いて正直ビビる。
「誰って、私はミョウジナマエよ」
「いや、そういう意味じゃなくて、真ちゃんとはどういうご関係で?」
俺が下に回ってナマエさんに聞き直した。関係を質問されたとき、真ちゃんも、ナマエさんも困ったような顔をした。
もしかして、あれですか、親友以上恋人未満とか?口下手で変わり者の相棒がそういう関係の女性がいるなんて、驚かない方がおかしい。
「真ちゃんの彼女なんすか?あんた」
核心を突くために真剣な顔で尋ねた。女性は驚いたような顔一つもしない、二、三度瞬きをしてから、何センチも背が高い相棒に質問を投げかけた。
「真太郎、そうなの?」
「彼女、という立場になるのだろうか?」
「え、マジで?天然二人組?それともシャイ?」
「彼女という立場よりは、違う」
「幼馴染でもあるんだけど、キスしちゃったしね」
なんとも充実している姿を見せつけてくれている相棒に拗ねたくなった。一大事なことを素直に告げてくれなかったのは、俺のことを信じてくれていないということだ。
けど、俺をも巻き込みたくないという一面もあってか、怒鳴るまではいかなかったが「ちぇ」っと小さく呟いた。
「喉が渇いただろう、紅茶を買ってくる。高尾と喋っているのだよ」
「え、俺のこと放置すんの?いいの?手、出しちゃっても」
「そんなことお前がするはずはない、嘘もほどほどにしろ」
「へぇ、溺愛されてんすね、ナマエさん」
振り返ってそういうと「嘘をついても彼は見破ってくれるもの」と薄く笑うのだ。
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