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「おはよう、よく眠ってたね」

「おかしいのだよ」


真太郎は私が目の前にいることに驚いていた。

顔が近いのに、眼鏡をかけていないせいか、眉間にしわを寄せて目を細めて私の顔をじっと見た。驚かせようとしていた私より、真太郎の行動に翻弄されている。寝そべっていたわけじゃないので、私は真太郎が寝ていたベットから移動して床に正座する。ゆっくりと体を起こして真太郎は近くにある眼鏡をとった。ナイトキャップは昔から変わらない、乱暴に脱いでベッドの脇へ置く。


「なぜお前は、ああ、そうか。また窓から」

「そう、窓から不法侵入よ」


眼鏡の位置を合わせて私のほうに視線を運ぶ真太郎の表情は、なんとなく新鮮。小さいころはそんなことなかったのに大人っぽく感じてしまうのは彼が高校生で私が大学生だからだ。


「自慢げに語るな、眼鏡をかけていないから視界がぼやけてお前なのかわからない」

「そこまで視力悪かったの?気づかなかったわ」

「成長に伴い、自分の視力も低下している。コンタクトを進められるが、やはり抵抗があるな。眼球にレンズをかぶせるのは、勇気がいる」

「眼鏡をかけていない真太郎は」


何か物足りないと言うと、真太郎は顔をしかめた。
ベッドから降りて、真太郎は下の階へと降りて行った。とんとんと、リズミカルに階段を下りていく彼の足音を名残惜しむように聞いていると、リビングルームにいる、彼の妹たちの明るい声が聞こえた。

急に、彼の部屋が広く感じ、寂しくなってきたので先ほどまで使われていたベッドに腰掛けて自分の部屋を見る。あの家には帰りたくない。


真太郎の家みたいに明るい声なんてしないし、両親だってかまってくれないし。
もう、朝イチで真太郎に会えたことだし、部屋に戻るか。大学のほうは午後から。レポートだって今日の4時に仕上げたし、そう思いながら窓枠に手をかけた。


「レモンティーを飲んで待っていろ、なに、すぐ戻るから心配しなくていいのだよ」

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