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「このケーキ、おいしいから食べないさい」
「そんな甘ったるいもの、俺は食べたくないのだよ」
「おしるこ飲んでるよね」
「それとこれは別の問題だ、食べるならお前ひとりで食べるがいい」
彼女がこの部屋に何度も訪れるにつれて気づいたことがある。
前はレモンティーしか飲まないといったが、タイミングまであったのだ。彼女はいつも食事が終わった後には、レモンティーばかりを飲んでいる。それでは栄養や舌の感覚が鈍ってしまうし偏ってしまう、たまにはミルクティーにしてはどうかと問うと、ミルクティーは悲しい味なの。と笑う。
また嘘をついている。なにが悲しい味だ、前はたびたびミルクティーも飲んでいたくせに。
嘘つき彼女と話すときは骨が折れる。
「一人で食べるには多すぎる」
「仕方がない、余ったら俺が食べる」
ドンと、テーブルの上に置かれたケーキは女が一人で食べる量ではないことははっきりしていた。
今日は不思議なことに、紅茶はミルクティーだった。
悲しい味など嘘だな、ただ飲みたい気分で変わるんだろう。
「ミルクティーについて、前しゃべったよね」
「ああ、お前は悲しい味だと言っていたな。お前は覚えているか」
「ええ、だって悲しいことを思い出すのだもの」
また、彼女は嘘の上に嘘を塗り固めてくる。めんどくさい話になりそうだと、俺は適当に聞き流していた。だが、話の節々にどうも信憑性が高いところがあった。
「はい、あとはどうぞ食べてください」
だが、彼女はうまい嘘を吐いているんだろう。
残りのケーキを見ると、ネズミがかじったようなほんの少しの量しか減っていなかった。おいしいなんて、嘘をつくんじゃない。
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