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「やっほ、久しぶり」

「大学のレポートが終わらなくってさ」と笑いながら窓から部屋に入ってくる彼女に多少は腹が立った。


今まで何の連絡もしなかったくせに堂々と俺の部屋に入ってくるなど、無神経にもほどがある。だが、俺には彼女をしかる権利なんてない。俺は彼女のことを愛しているつもりだが、彼女はどうなのかわからない。

愛している、好きだといえば彼女は喜ぶけれど、彼女から言われたことはないのだ。結局これは友達以上恋人未満ということなのか。

嘘つきの彼女に真実を聞いてもきっとへらへら笑ってごまかされるだろう。


「難しい顔してるわね、無理難題でも押し付けられたの?」

「いや、そうじゃない。とりあえず窓を閉めてくれ。虫が入る」


何時だったか、彼女は知らない男と部屋で喧嘩していた姿を見たことがある。喧嘩の内容は知らないが、男は泣いて彼女は泣いていなかった。彼女は強いから泣かない、という意味ではない、彼女は泣き方を知らないのだ。人前で泣くこと知らないのだ、俺の目の前で泣いたことだってない。

話を戻すが、彼女は静かに男に何かを告げて、男は泣きながら大声で「テメェとは二度と会いたくねぇ!」と怒鳴り散らしながら出ていった。

俺の彼女を侮辱するな。聞いた当初はそう思っていたが今ではそう思わなくなってしまった。


「真太郎は彼女いるの?」

「お前しか愛していないのに、無駄なことを聞くな」

「あら、浮気だって人類覚えるものよ」

「俺は覚えない、覚える気すら起きない」

「私がほかの人を愛したらどうするの」


そういわれた瞬間俺は彼女を殴っていた。平手で、彼女のふっくらとした頬を力強く殴っていた、戯言でも許されない発言に俺は耐えられなかった。

すまない、と謝る前に彼女は「ごめん」と謝った。殴った手は痛くて、とてつもない喪失感に襲われる。今まで大切にしてきた彼女を数秒で壊してしまった。


「そこで待っていろ、今冷やすものを持ってくる」

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