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彼女、先週から俺の部屋に来なくなった。

家に残っている彼女のティーパックを見ると、寂しくなった。恋している相手が来なくなることは、こんなにも心の中がすっからかんなのかと初めて知った。ふと、考えてみると彼女はいろんな紅茶を飲んでいる姿を見せていたが、実はもう、俺は一つだけ見抜いていた。

彼女はレモンティーしか飲まないというちょっと変わった舌の持ち主だった。

ストレートを飲んだ後に、口直しに何か飲んでいるところを見た、その時知ったのだ。とん、と肩を叩かれて振り返るとそこには高尾がいた。


「緑間、そろそろ移動しねぇと授業遅れるぞ。ぼんやりするなんて珍しいじゃん」

「違う、ぼんやりなどしていない。授業はそう簡単には逃げないのだよ」

「へーへ」


彼女のことを思うと、どうも視界がぼやけて、思考能力が衰える。これは何の病気だろうか、もしかして自分は彼女に依存してしまっているんじゃないか。不安になりそうになると同時に馬鹿馬鹿しく思えてくる。


「たかが一人の女に」

「え、なに、今なんて言った?」


にやにやと悪戯好きだと主張しているような笑顔を俺に向けて、俺のつぶやいた言葉をもう一度聞きなおそうとしていた。自分のことをとやかく他人に言われるのは、無性にイラつく。高尾の疑問に俺は無視を続けて授業を受けようと椅子に座る。その時自分の手にラッキーアイテムがないことに気づいた。


「なんか、今日のお前は調子悪そうだな」

「そう、見えるのか。心当たりはないが」

「女の子と考えている時点でもう調子狂うだろ、フツー」

「なぜそう思った」


「俺が聞き逃したとでも思ったの?」と偉そうに笑っている高尾に俺は反論する力も出なかった。

授業が始まるまで高尾に彼女のことについて何度も聞かれたのは言うまでもない。

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