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「僕と付き合ってください!」

「…あの、どちら様?」

「僕と付き合って!なんでもするよ!」

「いや、どちら様!?」


神様、どうか私の願いを聞いてください。

私は奇想天外な人生を歩みたいのです。

そう、神様に願ったことは一度もない、これは言い張れる。拒絶反応が出てしまうくらい生活の変化に恐怖を抱く私がそんな切願するわけがない。天地がひっくりがえったとしてもない。


その女の目の前にいるひとりの男の言葉をうまく解釈できない。


これから仕事があるのを、さも予想していたかのような振る舞いがなんとも居心地悪い。というより、気持ち悪い。ストーカーのようだ。

すぐに立ち去ろうと私は決意したが、わざと目の前の男は道を通らせてくれない。「とーせんぼっ!」と可愛らしく言うから許されるとは限らないよ。世の中。


右を行こうとすれば「こっちじゃないよね、あっちが仕事場だよね、おっちょこちょいなところも可愛いね!」と言い、また左の方を行こうとすると「ああんもうっ!仕事行く前に返事頂戴!れーちゃんこう見えてもドキドキしてるんだ!」と一言ではなくたくさんの言葉をマシンガンのように立て続けに言ってくる。


そもそも…私は思った。


「あなたは、一体何者なんですか?」


ぱっちり目に態とらしく伊達メガネをかけて、それに合わない新品そうな帽子、少しだけ長い茶色い髪の毛が可愛らしくハネていた。


そんな男性は私は知らない。

誰何してみても男は固まって何も言わない。ただの罰ゲームをしに来たんだろう、とんと失礼なやつだなぁ。こういったろくでもない大人が増えるから子供も真似をするんだ。


私は「失礼します」と一言冷たく放って立ち去るが、腕を掴まれた。
「しつこいっ!」と苛立ち、声を上げると、茶目っ気のある目が私の目が合った。仕事に行くのにここで足止めをくらっていると遅刻してクビになるか、運良くクビをまぬがれたとしても上司に目をつけられる。ほんとそれだけは勘弁してくれ。お局様とか一番怖いんだもん。


今日は何のバチが当たったのかわからない、離してくれ、てか初対面なのに執念深いな。

このシルエットは女々しい。男がサバサバ系女子に振られているようなものと同じではないか。そう思ったとき、男の人は口を開いた。


「僕は寿嶺二、シャイニング事務所所属で特技はマラカス!職種はもちろんアイドル!実家では寿弁当屋やってるんだ、えっへん!」

「スミマセン、もう一度お願いします」


朝からぶっ飛んだやつが話しかけてきました。本当に恐ろしくなってきて、私は表情が引きつっていくのが感じられた。


「ん?あーごめんごめん、恥ずかしくて、緊張してて早口になっちゃったっ!」

「いやいや、聞けました、耳に届きましたとも、あの、Quartet★nightの寿嶺二さん?偽物さんですよね、今の成形技術も発達しているから…ああ、世の中って本当怖い」

「じゃあもう一度言うね、信じてくれなさそうだし…。僕の名前は寿嶺二!れいちゃんって呼んでもいいけど、嶺二くんでもいいよ、っそっちのほうが嬉しいな。職種はアイドル!僕と付き合ってくれたらお金あげる!」


はいもちろん喜んで。

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