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この幸せが、いつまでも私の世界を包み込んでいてほしいね。最終章に書かれたこの一文に私は、到底理解できないと感じ目を伏せて本を閉じた。


慣れない人の手のぬくもりに、私は焦りを感じることがある。このまま私は彼らのそばにいていいのか。

元々奴隷だった私をお情けで拾ってくれた、そんなちっぽけな理由で今、のうのうと暮らしている。海の上で。ほかの奴隷達は私と違って故郷を知っているとからすぐに帰郷できたが、私はただひとり残された。本当の孤児となった。現在では赤髪海賊団で手厚い保護を受けているが、いつ捨てられるのだろうか、怖くて眠れない時がある。
こんな疑心暗鬼になって、必死に答えを探そうとしている私が、彼らのそばにいていいのか。


春島に辿り着いた赤髪海賊団は、島に着くなりクルーたちは何処かへすっ飛んでいった。私の隣でボソリとベンさんが「アイツ等だけ仕事増やすか」と、言っていたので私は「仕事なら私ができる範囲全てやります」と意気込んだ。
しかし、ベンさんを困らせてしまったのか、しかめっ面になり私の頭を乱暴になでた。


やっぱり、いらない子。なのか。


メンタルが弱りつつもコックさんのお手伝いをしていると、赤い髪の毛が目に入った。私は立ち上がって、シャンクスさんに注文を聞こうとしたら、頭上に何かを乗せられて、にやりと笑われた。


「おーいナマエ、外に行くぞ」

「…はい、でも」

「なぁ、別に一人抜けたって大丈夫だろ?ウチの優秀なコックサン」

「ちょ、え」


ああ、きっと彼は私と一緒に仕事をサボろうと誘っているんだと。直ぐに悟った。


シャンクスさんが私の頭上に載せたものは何枚かの書類とベンさんへの書置きだった。内容は外へ出てくるということだった、直球過ぎて私は笑ってしまった。コックさんに断りを入れると、コックさんは大爆笑してから私を送り出してくれた。支度ができたあと、ベンさんの部屋へ行って、シャンクスさんが書き終えた書類と、書置きを届けて私は即座に立ち去った。シャンクスさんにそうして来いと、船長命令が下されたので従わなければならない。重たい罪悪感を抱えながら私は足を早めた。


シャンクスさんは私をどこに連れて行くのか考えてなかったらしい。まあ、それもそれでシャンクスさんらしい。そんななか、たどり着いたのは一面に広がる花畑。桃色の花に黄色い花、紫色の花、たくさんの花に包まれているその空間は私を魅了した。

シャンクスさんは無言で私の手を引いて花畑へと連れて行った。



「そうだ、お前は好きな花とかないのか?」

「好きな花ですか?」

「おう、それとも、花なんて興味なかったか?」

「いいえ、そういうものに触れ合うことはあまりなかったので。わかりません」



きっぱり言うと、シャンクスさんは眉間にしわを寄せてどこか遠くを見つめた。何を思っているんだろうか、探りたくなった私の探究心がくすぐられて、口に出そうとした。しかし、せっかく気休めとしてこの場所に来ている、だから深く考えることはやめよう。

私は気を紛らわすように、周りを見た。

その時、シャンクスさんは立ち止まって近くにあった花を何本か摘んで私の耳にかけた。



「なら、これを機会に花を好きなればいい」

「?」



こんなことなんて一度もなかった。お嬢さまはよく、私を可愛がっていたのでこういうことを昔してくれたが、それは遠い昔のこと。シャンクスさんは私の右腕を掴んで、そこに座らせた。シャンクスさんが私の耳につけた花に向かって唇を寄せて蜜を吸っているのに驚いて一歩、後ろへ下がろうとしたら「安心しろ」と低い、テノールで囁かれて私はおとなしく命令に従う。



「っ!」

「可愛いな、ナマエ。どんな美姫に誘惑されてもお前を選びそうだ。いいや、選んでしまおう、お前が誰よりも必要で、大事だと。男の本能さえも狂わせるくらい」

「あ、のっ」

「綺麗だ」


蜜を吸い終わったシャンクスさんはうっとりした目つきで私を見つめた。感じ方ことがない胸の疼きが私を支配した。そっと視線を外して先ほどの行為がなかったかのように、シャンクスさんは花畑に咲いている、近くにある花をそっと救って私に笑いかけた。



「スゲエだろ?ほら、この色なんかも綺麗だろ」



気づかなかったが、黄色にもほかにいろんな色が混じっていた。一枚の花びらからこんな綺麗な混色が生まれるなんて不思議でたまらない。感心してみていると、シャンクスさんは私の頭を撫でていた。前かがみになっている私はうっかり何本かの花を潰してしまった。



「初めて、このような色鮮やかな花を見ました」

「男の野望の中でもこういう一休みもあるんだぜ、花かんむり作ってやろうか?」

「…作り方、教えてください。シャンクスさんのために、作ります」



流石に片手では無理だろうと私は考えて、シャンクスさんを笑顔にさせようと切り替えた。不器用な私だけど、出来るかもしれない。

緊張で震える両手が私に「無理」だと仰ぎたてるけど、きっと大丈夫、というどこからかわからない勇気だけが頼りだった。
ふと、気づくと、右手でシャンクスさんは私を手招きしていた。



「ほぉ、ならもうちょっとこっちに近づけ」

「はい」

「まずはこの花をこうくくりつけるんだ」

「…難しい、です」

「これくらいどうってことない、ナマエならできるさ。諦めんな」

「頑張ります」



持っていた何本かの花を折り曲げて必死に作っていると「ナマエ、そんなに焦らなくても俺は待ってる」とシャンクスさんが苦笑気味に応えた。自分の不甲斐なさに、下唇をかんでいると、シャンクスさんがさきほど耳にかけてくれていた花が落ちた。先ほどより色あせている花だった。まるでそれは出来の悪い私に見えた。

コツンとシャンクスさんが額を私の額とくっつけた。「ナマエ、お前はとっても優しい子だ。こんな海賊風情の男に花かんむりを作ってくれるなんて、俺は幸せ者だ」そう、自嘲気味に私に言う。





「なあ、お頭って花かんむり作れたか?」

「…俺の記憶が正しければ、一度も作ったことがないはずだ」

「お頭の場合、花があってもそんじょそこらの女に渡すくらいだろ」

「うわぁ、ナマエを誑し込むつもりか。ベン、俺はそれを許さねえぞ」

「奇遇だな、俺もだ」

「そろそろひきあげよう、いいや、お頭を捕まえよう。手を出されたら殺そうな」

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