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「好きです、イワン先輩」

アカデミーに通っているとき、何度も僕の後ろを追いかけてくる後輩がいた。その後輩は日本人で僕よりheroむきの能力を持っていて優秀、仲の良かったエドワードを思い出させる。鬱陶しいと言うよりは、先輩である姿を見て欲しいといつも願っていた。小さな背丈、綺麗な漆黒のツヤのある髪の毛を揺らして、僕を見つめて「好きです」と頬を赤く染めて口にしていた。真面目そうな雰囲気からして本気で僕のことを慕っていることがわかった。
僕はそんな後輩に、曖昧な答えを出して気持ちから逃げ回っていた。周りから目立ちたくなかったし、あんな恥ずかしい告白をリピートされると自分の「好き」を見失いそうだった。
アカデミーが終わって帰り道、後ろを引っ付いて歩く後輩がいないことに疑問を抱いた。

「ナマエ?」

振り返って後輩の名前をつぶやいて、雑踏の中に声音は消えていく。「好きです、イワン先輩」という声も「今日も一緒にご飯食べに行きましょうよ」なんて、明るい笑顔付きの誘いがない。

「ナマエ、やっぱり僕が好きだっていうのは嘘だったんだね」


後日、後輩が後輩じゃなくなったことを耳にした。僕には何も言わないで、先輩という僕に頼らないで勝手にフラフラとどこかへ消えてしまった。
よく、後輩と訪れていた寿司BARで腹を満たそうと思い立ち、歩き慣れた道を進む。店先まで来たとき、見慣れない女の人が箒で周囲を掃除していた。まだ、開店時間じゃなかったのかな、時計を見ても客が来ても丘しかない。

「あの」

「いらっしゃいま…」

黒い瞳が僕を映す。客が来た時の常套句が僕を前にした途端、止まった。まさか正体がばれたのか、平然としているが内心大慌て。けど、想像を遥かに超えて目の前の女の人はみるみる涙をためて人懐っこい笑顔で僕に言う。

「今でも好きです、イワン先輩」

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