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「別れたいんです」


朝食を食べたあとに、私は目を合わせないでマグカップの水面を見つめた。茶色く鈍く濁っているコーヒーに私の顔がぼんやりと映る。でも、表情を見るための道具じゃないためちゃんとは見えない。朝食を食べて出かける準備をしている彼は動きを止めたのか、衣服が擦れる音が聞こえなくなった。


「私は君に何か、してしまっただろうか」

「ううん、そうじゃなくてね」


私みたいな、一般人がキラキラと輝いているヒーローと幸せそうに暮らすなんておかしいと思い始めたんだ。

これといって言い張れることなんてないし、自慢できることなんてない。

そう考えると、ウズウズしてくるんだ。率直に答えは返さなかった、もしも私が自信がないという理由で別れたいと聞いたら彼はかたくなに拒むだろうと踏んでいるからだ。


「じゃあ、どうして私と別れたいんだ」


キースは私の方へ近づいて、両手からマグカップを奪うと同時にベッドルームへ連れて行く。ジョンは眠たそうにこちらを一瞥して目をつぶって伏せた。あんなに焦ったキースは初めて見たので、呆然としていた。


「私はいつきみの機嫌を損ねた?それともいつも一緒にいられないからもう私と暮らすのは嫌なのかい?けど、私はいつも君のことを考えてるんだ、そう、いつもいつも。不安になることはないさ、この部屋で同じ空気を吸っていること、すごく幸せだと思っている。体を重ねる時だってキスしている時だって、もう、失いたくないと思うくらい」


「重いよ、キース。苦しい」と、かすれた声でキースに伝えた。体重をかけて私の上に座るのでうまく呼吸ができなくなり、まともな考えが働かない。


「私のほうが苦しいんだ、どうか慰めてくれそして、恨んでくれ」


ゆっくりと頬を愛撫して力任せにブラウスを引きちぎった。プチン、バチンとボタンがはねて飛んでいった。キースの体に当たったのに、気にしないで首筋を舐める。


「愛してるんだ、そしてまだ愛していたいんだ」

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