log | ナノ
いつもこのお店に来るイケメンがいる。ううん、イケメンじゃなくて美人さんって言ったほうがいいかもしれない。スラッとしていて、手足が細くて綺麗、紫色の瞳が時々かち合う。紫色のスカジャンの後ろには日本文化が好きと誇張するようなプリントもある。彼はこの日本風雑貨店に訪れる。よく、折り紙とかちりめんとかとんぼ玉とか買っていく。

私は彼に会うため、じゃなくて肌に優しい化粧道具とかあぶらとり紙とかを買いに来る。母国のものが一番肌にしっくりくる。

一度でもいいから、猫背気味のあの男の人に話しかけてみたい。名前を聞きたい。その綺麗な手に触れてみたい。日に日にそんな乙女チックな欲が溜まっていく。
今日は匂い袋を買いに訪れ、一つ一つ手にとって匂いを嗅いでいた。きつい桜の匂いよりもっと柔らかな匂いがないか探してみるがなかなか見つけられない。仕方がない、今日は髪飾りでも買って帰ろうか。


「あ、の」


消えそうな、か細い声で誰かが私に話しかける。この声音に覚えはない、通りの邪魔をしてしまったのかと思い顔を上げるとそこには紫色の瞳が二つ。


「あの、よくこのお店に来るんですか」

「え」

「いつも、見かけるから。本物の日本人がいるから話しかけたかったんだけど、えっと」


顔を赤らめながら私に一生懸命話しかけてくれる目の前の男性。社交的な人が多いこの国では珍しいのかもしれない、私もハラハラしながら彼の言葉を聞いていた。


「その、つまり…。僕と、一緒にお茶でもどうですかっ」

「もちろん」
|