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病み表現を含む



何度も頭を撫でてくれるのは、二人だけだった。犬のように撫で回してくる奴は除外だよ?気持ち悪い、化物の僕を何度も撫でてくれる二人。ひとりは僕のにーに。毛フェチで、髪の毛を整えてくれる大事な狼。もうひとりは。


「ナマエ、どこ。ナマエ!」

「遥?どうしたの?どこか痛いの…なんで泣いてるの?」

「ナマエがどっかに行っちゃうからだよ!何してんだよっ!」

「っ遥、遥、危ないから投げないでっ」

「うるさい!嘘つき!ナマエなんて死んじゃえ!バーカバーカ!」


半狂乱で僕は彼女に無作為と物を投げつけて叱る。ナマエの両手は濡れていて、食器を洗っていたみたいだったけど、そんなの関係ない。涙を流しながら僕は何度もナマエに罵詈雑言を飛ばして、どれが凶器なのか判別つかないくらい暴れていると、夏輝が走ってきた。弥太郎も急いで駆けつけて、ろくでもない父が乗り移ると弥太郎という器を使って僕を止めにかかった。夏輝は傷ついたナマエを介抱している。ああ、イライラする!


「離してよ、聡明さんっ!」

「バカ息子、動くんじゃねぇっ。またナマエに八つ当たりかよ」

「はあ?僕は悪くないっナマエが僕の傍にいないから悪い!夏輝、そこからどいてよ」

「ダメっス遥さん!このままじゃナマエさんが死んじゃうっス」

「僕に殺されたらそれは本望でしょ、ナマエ。ねえ、ナマエ」


体力を無駄に消耗してしまったみたいだ、膝からがっくりと落ちてしまった僕に峰打ちをして気絶させた聡明さんがひどく傷ついたような表情で眠の園へと見送った。どうせなら、ナマエが良かった、あんたじゃなくて、ナマエが良かったんだよ。




そう、頭を撫でてくれるもうひとりは秋吉の妹、ナマエだった。ナマエは捨てられていた子供だったけど、孤児院から化物がいるという通報のせいで法の番犬とさせらた。どうしてナマエ一人が捨てられていたのはよくわからないけど…そこで僕とナマエはであったんだ。

初めて見たとき、僕のことを気持ち悪いじゃなくて「友だちになってくれるかな?」なんて可愛らしい言葉だった。


目を覚ますとそこにはちゃんとナマエがいた。僕の顔を見るなり口を開かなくてもごめんなさいという謝罪の言葉。手を伸ばして頬をなでるとくすぐったそうに笑っていた。


「ナマエ、もう僕から離れないで」


幼い時に習得したことは、今でもうまく利用している。
エゲツナイなんて言わせないよ、警察も同等のことをしているんだから。

一筋の涙を流せば、ナマエは驚いたように目を見開いて寝たままの僕を優しく抱き込んだ。


「ごめんなさい、遥」

「暖かい、ナマエ。もっと強く抱きしめて」


ちょろいな、ナマエは。僕が泣いてすがりつけば、もう絶対離さない。何度も心の中で謝り続けている。自分が不出来だったから、無能な警察犬だったから嫌なことでも思い出したんだとか、一度もないている理由を聞かずに妄想だけで僕の泣いている理由を作る。

僕はね、ナマエ。

僕の腕の中にナマエがいるだけで幸せなんだ。豊満な胸に包まれて、ナマエの香りに包まれて暖かい体温を感じる。だから何度も泣いたふりをして、僕が「キモイ?僕のこと嫌い?」って問いただす。

心の底から僕を愛してくれなくても、たとえナマエの心の中に知らない男がいても。


僕の腕の中にいれば、もうナマエはその男を知らなくて済むでしょ?

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