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フランスでの出張を終えて私はお土産を因幡くんに持っていくために事務所へ行ってくる、と言えば柚樹は終始無言で私の隣を歩いている。不機嫌というわけじゃない、これが私たちにとっての普通、何をするにも一緒にいるという暗黙のルールでの前提で動くのだ。嬉しくないと言えば嘘になるけど、柚樹は今ステラちゃんも抱えているからあんまり仕事の邪魔になりたくないのが本音、かもしれない…。

探偵事務所に着くなり柚樹は因幡くんに抱きついたりしていて、私は働く助手と毒舌助手にお土産を渡す。喜んでくれたし、うん、帰ろうか。


「思ったんですけど、二人っていつ結婚するんですか」


そう聞いた因幡くんはタピオカジュースを飲む手を止めた。
いつ二人が結婚って、何言ってるんだ優太くん、優太くんと因幡くん、そう君たちは男の子同士だから結婚できません。
いいや、もしかしたら柚樹とステラちゃんのことかもしれない、やめなさいそれは犯罪です。紅茶をすすっている私と、ステラと仲良くケーキを食べている柚樹を交互に見て因幡くんはバシバシと優太くんに近づいて背中を叩いた。


「二人って誰のことかな優太くん〜」

「先生、二人って決まってるじゃないですか。緒方さんとナマエちゃんですよ」

「うんうん、緒方とナマエ…ってなに本人目の前で言っちゃってんの優太くん」


ニヤニヤと黒い笑みを浮かべながら因幡さんに詰め寄っている。何故私と柚樹なんだ。現在、柚樹は絶賛フリーだけれどもう彼女は作らないと言っていた。本気になった相手でも出来たんだろう、それが私なんて今世紀最大にありえない。きっと柚樹が本気になった相手は、同僚の女の人だろう。仲良さげに喋っているところを何度も見ていたから私はわかっている。


自分には、彼と肩を並べて歩めるような存在じゃないから。


しかし、優太くんは私に包丁を見せつけ、清々しい表情でこう言った。


「だってじれったくてイライラするんですよ」

「うっわ純真無垢そうな笑顔ですっげえひどいこと言ってるよ。でも、そうだよね」

「?圭くん、なにがそうだよね、なの?」


因幡くんは二人を止めようと必死になっている。長年仕事をしてきた私と柚樹がそういった関係を持ってもおかしくないか。だがしかし、ご期待に応えることができないのは事実。ただの仕事仲間、プライベートでは一緒にご飯食べに行ったりショッピングしたり、ストレス貯まればヤったりするけど、これって付き合ってるのか?圭くんが私を見て指を指す。


「だって荻さんだって結婚して子供だっているんですよ、どう見たって二人は仲睦まじい恋人同士じゃないですか。いつ結婚するか決めてるんですか?」


私と柚樹に詰め寄るので、私はステラを持ち上げて片手をぬいぐるみの犬を扱うように振ってみせた。


「…私、柚樹と付き合ってないよ?ね、柚樹?」

「え、あ、いや、そ、うだな…ああ」


何故か私と視線を合わせない、なんだ、後ろめたいことでもあるのか。ステラが頬袋をパンパンにふくらませて不機嫌になっている。オイオイ、ステラとユズキングは何でそんなに態度が変わっていくんだ、私は首をかしげる。


「もしや、緒方」


因幡くんは私ではなく、柚樹に詰め寄り始めた。どんな表情をしているかわからないけど、きっとМ属性の柚樹は喜んでいるに違いない、震えている声は、因幡くんと距離が近いからだろう。


「な、んだ、洋」

「お前!ナマエを誑かしているのか!許さねーぞプンプン!」

「…」

「ナマエさん、冷たいその眼光で見てしまう気持ちはわからなくもないですけど本当にやめてあげてください、喜んでますからあのバカ二人」

「ここは思い切って別れてみるってどうですか!?」

「なんで優太くんがすっごく嬉しそうなの?君って笑みを浮かべる悪魔なの?」


「だから別れるような関係じゃないって」と、私が言うと部屋の中は静まり返った。あれ、もしかして今の発言って結構爆弾?柚樹に目を向けると、思いつめたような顔をして私を見ていた、ギュッと眉間にしわを寄せて、捨てられた犬のような眼差し。圭くんが雰囲気を取り戻そうと、因幡くんとつるんでなにかしだしたけど、柚樹は私から目をそらさない。ついさっきまでは私から目も合わせなかったのに。


「ホ、ホーラ。海髪様がいい天気にしてくれたぞ!」

「来た時から晴れでしたけどね、先生」

「ゆ、優太くん!」

「質問終わり!柚樹、そろそろお暇しましょうか」

「あ、ああ…」

「ステラ!知ってるもん!柚樹はナマエのことだぁいしゅきってこと!だからナマエに振り向いてもらうように毎日お洋服とか、きにしてたもん!」

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