log | ナノ
「好きだよ」「こんな言葉、言えるのお前くらいだ」戯言だと信じていた。

だって彼は私なんか地味で、なんの取り柄のない、出来損ない。


親にも、友達だったと持っていた人たちに裏切り捨てられて。痛みに引き裂かれて、ボロボロになった心は使い物にならない。いなくたって別にいいんだと…嗚呼違うよ、悲劇のヒロインになりたくてベラベラと過去を語っているわけじゃないんだよ。事実を述べていて、ちょっとだけ、ストレス発散したかっただけなんだ、気を悪くしたらごめんね。じゃあ、次進もうか。


きっとこの人だってそうなんだろうと、黒い感情を渦巻かせながらその時を待っていた。

慣れてるから、その潮時がわかるんだ。

夜明けのように訪れる裏切りの時間。悲しいなんて感情はどこかに吹き飛ばされてしまったからわからない。
普段よりちょっとだけおしゃれなお店に入って、コートを預けて引かれたイスに腰掛けて出てきた食事を黙々と食べていた。飽きもせず、犬の話をしていると、舌戦し終えたあとのように口を閉ざす。


お別れでも言うんだろう、一時の補填でもよかったのに。
でも、どうして、この人は。


「好きだ。一生大事にする、だからナマエ。ナマエのこれからの人生を俺にください」


なんで、私に跪いて綺麗なダイヤを填めている指輪を見せるの。
一度も彼に対して、何かを上げたわけじゃない。
彼に幸せになってもらえるようなことをしたことがないのに、何で、そんなに必死なの。


手を伸ばして、答えを待って震えている柚樹を抱きしめたほうがいいのか、それともこれは罰ゲーム。叩いて「さよなら」と一言で終わらせたほうがいいのか。柚樹の本心が見えない。
庵さんもグルなのかもしれない、だってこの場所にいつもいるはずなのに買出しに行ってくるとか用事をわざわざ店を占めたという印が見える。


「やっと見つけた、ナマエ」


ガラス細工みたいに優しく抱きしめる柚樹に、私は仮面を外した。

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