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静かな昼下がり。変わらないいびつな日常を送っていた平和島静雄にとって彼女は大事な存在だ。サイモンを急ブレーキと例えるなら彼女は緩やかなブレーキ。手に負えなくなるあの凶暴化した人型を穏やかに止められるのは彼女しかしない。
話がずれた。まあいいとして、平和島静雄は昼休みを有効に使おうと某ハンバーガーショップへ向かおうとしていた。


「静雄!静雄!」


しばし沈黙。静雄は足を止めたがまた歩き始めた。しかし、彼女の大きな声は止まらない。子供のようにやや興奮気味に名前を呼んでいるのは、見た目23歳には少々アレだ。


「静雄って言ってんじゃんーシズちゃんって呼んじゃうよ」

「あ?はぁ…またお前か」


仕方がなく今気づいたように振り返って彼女を見やるとふくれっ面をしている。タバコに火をつけて静雄はさも自分には関係なさそうに歩き始める。彼女にとってそれは、付いてきてもいいという信号なのでたちまち笑顔に変わり、一緒に歩く。
傍から見ると彼氏彼女が仲良く歩いているように見えるが、有名人である静雄が隣にいると脅されて演技をして付いてくるようにしか思えない。


「来ちゃいけなけないの?こんなにも静雄のそばにいたいのに」

「ぜってぇ怪我するぞ」



その言葉を聞いて目を見開いた。それはまるで待っていた言葉が帰ってきたかのようにゆっくりと広角を上げて言葉を連ね始める。



「してもいいよ、心配する人なんていないから。確かに怪我したらいたよね〜鐫で足に刺さったら痛いし」


一体何の話をしていたのかわからなくなって頭を抱える静雄。金髪がきれいだと、能天気な言葉を耳にして、これは手遅れだと感じた静雄は説得することを諦めた。
別に彼女が嫌いだとか好きだとかそんな感情は持ち合わせていない。

けれども数少ない女友達が折原臨也に潰されるのは嫌だと思っている。言い換えたらただの静雄の独占欲。好きとか嫌いとかのない独占欲というものはある意味静かすぎて怖い。


タバコを律儀に地面に捨てると、振り返って彼女に一言言い放った。


「どうでもいいからお前は自分のこと考えろ」

「自分のこと考えているからここに来たんだよ…もしかして怒ってる?それとも私が」

「そうじゃねぇけど…」



めんどくさくなって静雄はそこから会話を遮断した。一方的に話す彼女の話を音楽のように聞く。
目的だったハンバーガーショップは先ほど通り過ぎた。今と先ほどでは目的が異なるからだ。

どこへ向かっているかわからないけれど彼女は今日も静雄を追いかける。


「静雄、私、止められるからね!だからいつでもそばに置いていいから、ああ、連れ回したっていいんだよ?これで静雄が暴力に苦しまなくていいんだから私は死んでもいいよ」

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