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夫婦間といっても私たちにとっては、まだまだ曖昧な関係の延長戦のようだ。恋人関係になったわけでもないのに、いきなり柚樹は私が仕事終わりに結婚してくれと指輪を差し出した。泣きそうな、苦しそうな顔でそう言うから私は断れなかった。

柚樹のことは嫌いではなかったし、好きでもなかった、ただのめんどくさい友達だと思っていから、すごく驚いた。


「好きでもない相手と結婚できて、それが本望なのか」とマフィアにまで心配されたけど、好きじゃないということを熟知している柚樹は、そんな私を認めて指輪を差し出したんだと諭したら、逆に泣かれてしまった。ヤギさん、ごめんなさい。あと、ロレンツォさん、結婚祝いのご祝儀ありがとうございました、ありがたく使わせていただきました。



昨日、庵さんのバーで酔いつぶれたから迎えに来てくれと電話で圭くんが教えてくれたので迎えに行くと、出来上がった柚樹がぐったりとカウンターで寝ていた。あんた神経図太いな、オイ。お代を置いて帰っている途中に柚樹が気がついたみたいだったので、歩いてもらおうとしたらまさかの展開、抱きつかれてしまった。

そんな、次の日の朝の話。


「柚樹おはよ」

「ん、あれ、俺いつの間に」

「昨日酔い潰れたのを聞き付けてとりあえず運んだの」


二日酔いで頭痛に悩まされている柚樹に冷えたミネラルウォーターと、梅干を差し出した。力なく手を伸ばしてコップを掴んで一気飲みをした柚樹。だが、すぐに酔いが回ってきて顔を青ざめてイケメンには似つかわしくないうめき声を上げた。吐き気が襲ったのか、口元を抑えて下を向く、急いでバケツを持ってこようと洗面所へ向かおうとした途端に柚樹は反射神経を使って片腕を掴んで止めた。
「大丈夫だから、そこにいて、俺のアフターケアして」と、したを向きながら言葉を発する。


「あー…俺昨日、変なこと言ってなかったか」

「…ふぅん」

「え」

「『俺はナマエよりあの子と結婚したかったなぁー』とか言ってたけど気にしてないから」

「思いっきり気にしてるよ!?てか、俺そんなこと言ってたのか?」

「しーらんけー」


イスに腰掛けて私がそっぽを向きながらテレビを見ていると、柚樹はぴたりと話すことをやめた。あまり暴れてしまえば、酔が回りすぎて具合も悪くなる。悪循環を避けたい。大人しくさせている方が幸せなんだなぁと思っていると、まだ掴まれた片腕を何度か引っ張られる。柚樹の方へ顔を向けると、真剣そうな顔つきで口を開いた。


「…俺は口が裂けてもそんなこと言わない。それに」


ぐっと力を込めて、私を引張るなりそのままソファに座らせて、柚樹の膝枕に成り代わった。ちょっと待ってくれこの状態だと柚樹が吐いたら私の膝に吐瀉物がかかるではないか。掃除する役の私が膝枕に代行するなんて。拒絶するように私は、立ち上がろうとすると、腰を抑えられて動けなかった。


「ちょ、話は終わったから」

「俺はあの時誓ったんだよ、何があっても俺は」

「こ、これ以上言わなくていいって」

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