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探偵事務所に居座っていると助手たちがわーきゃーわーきゃーうるさい、いいじゃん、探偵事務所という名のダラダラ室なんだから。
ソファの上で寝っ転がっていると毛フェチである因幡さんは私の髪の毛を幾度もなでていた。傷心中なのに犬になった気分に侵される。クッションにうずめていた顔を上げて因幡さんに話しかけた。
「因幡さん、因幡さん」
「…なにウジウジしてんだよ、気色悪ィよ!てか涙拭けよ!」
「実にウザったいですね」
女装癖の男に言われた最後の言葉にぐさりと刺さる、圭くんが私のほうにハンカチを持ってきてくれた。遠慮なく涙を拭かせてもらうと「悲しいことでもあったんですか?」と純粋そうな瞳を向けられた。因幡さんはそんな状況なのに髪の毛から手を離さない。
バダン、と扉が力強く開けられたので振り返ってみてみるとそこには新たな相棒である荻野刑事が立っていた、因幡さんと助手で「帰れ」コールをしていると私は頭を片手で掴まれた。
「ナマエ、いいかげんにしろ。そんなに柚樹がパートナーのほうがいいのか」
「荻野先輩がメシおごってくれたらオールオッケイです」
「ほお、野良犬にしてやろうか」
「そう言う言葉は因幡さんに向けてください」
「別に嬉しくねーけどな!」
「その割にはウキウキしてません?」
「さすがドMですね!因幡さん」
瞬く間に扉が開けられて因幡さんは誰かに抱きつかれた。匂いからして私の元相棒の柚樹さんだ。立ち尽くす私は荻野刑事によってソファに座らされた。父性溢れるこの人には勝てないな。
「ひぃいいろしぃいいい!」
なんどもよしよしと頭を優しく叩いたり、髪の毛を触ったり抱きしめたりしている柚樹さんにいらだちが隠せず、思いのほかソファに爪を立てた。ギギギギっとすごい音を立てているが気にしている場合ではない。
「ナマエちゃぁあんん、顔、顔めっちゃ歪んでるから!」
「ナマエ!お前もいたのか、言ってくれればパトカーでぶっ飛ばしてきたのに」
「あんた警察だろうが!やっていいことと悪いことあるからね!?大丈夫なの日本警察!?」
私の方へ近づいたと思えばガプリと私の手に噛み付いた柚樹さん。ちろりと指先を意地悪そうに舐めて抱きついてきた。普段していることだったから慌てることはなかったけど周りがはやし立てた。ここで登場したのは一般常識人の圭くん。
「ミョウジさぁあぁん、何してるんですか!てかそこで全身全霊で抵抗してください!」
「柚樹、ナマエから手をはなせ、嫌がってるだろ」
「え、どこが」
「真顔で反応するな、ナマエ。お前も嫌がっとけ」
「やだ、我慢する」
「いや、もうその発言で嫌がってるのわかっちゃったから」
圭くんが冷静にツッコミを入れたところで私は抱きしめる柚樹さんの耳元でポツリと呟いた。
「…柚樹さんの浮気者」
「え」
「ずっと一緒って言った!でも嘘ついた!」
「うっわー修羅場だよ」
「因幡さん、口挟まない」
「…俺は一緒にいるつもりだぞ?これからずっと、この先」
「でも」
「アレは断るんだ、俺はお前一筋だ」
その言葉だけでいっぱいいっぱいなのに柚樹さんは私の方を熱っぽい瞳で見つめた。同じく私も頭の中がぼんやりしてきて柚樹さんを見つめた。そっと私の顎に手を添えて整った顔を近づけて唇を落とした。外野がすごくうるさいけど。
「うわぁ、やっちゃいましたね」
「公衆の面前なのに」
「やっだぁ恥ずかしい〜」
「少しくらい黙ってあげられないんですかアンタら」
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