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ソファの上に寝そべっている彼は私の上司でもある。
そこまで上下関係は厳しくないけれど、仮にも有能で参謀役の彼を風邪ひかせるわけにはいかない。自己管理が最も大切なんだ。
そもそも、冬到来しているのに暖房をきかせすぎ。これじゃあ免疫力とか対抗力が損なわれてしまう。

掃除機を片手に私は彼の方を何度も叩いた。
情報が処理しきれないのですぐ眠ってしまう彼にはとても申し訳ないけれど…。


「遥くん、眠たいならせめてお布団の上にしましょうね」

「ナマエ、僕の体力はそんな残ってないんだよ?ここまで布団持ってきて」


ごしごしと何度もまぶたの上をこすって私にそう言って、甘える。
こんな彼の一面を許してはいけない、という反面許してしまう自分が情けない。

白くて、ふわふわしていて、本当にウサギさんっぽいけど実は腹の中は誰もが怖がるほど真っ暗で黒い。一度怒らせたり、気に障るようなことをしてしまえば殺されかねない。てか、怖い。

片手に持っていた掃除機を仕方なく床におろして私は布団がしまっている和室へ移動する。


「ちょっと待っててね」

「え、行っちゃうの?」

「う、うん。遥くん、それまで寝ちゃダメよ。風邪ひいちゃう」

「ヤダ」


ぎゅーっと私の腰に抱きついてきた遥くん。白い髪の毛のつむじが見えて弟っぽい、こんな甘えたさんの弟欲しかったなぁ。私には家族がいないから、彼らが家族に等しい。

昼下がりのポカポカした時間に、ぬくもりを保っている体を擦り付けられたら私も眠たくなってしまった。自分も叱責するように私は声を上げた。


「わがまま言っちゃいけません」

「僕何もわがまま言ってないよ、これは命令だよ。ねえ、僕の隣にいて」

「これからロレンツォさんと一緒にお掃除」


袋の仮面をかぶったロレンツォさんは秘密に守られている、このチャンスを逃したらあとはない。ご自慢の情報収集能力でロレンツォさんを見破りたいけれど、遥くんが命令を下したら何も動けない。

仕事するなっていうことかな、よし、職務放棄だ。
そう思ったとき、マフィアのボスであるヤギさんが近づいてきた。なぜ、日本家屋にマフィアが住んでいるかなんて聞いちゃいけない。


「ナマエは働き者でおろー、お主も少しは働くであろー」

「えー」


抱きついたままで嫌がる遥くん。この姿を実の兄である洋さんが見たら泣くだろう。全米が泣いた。おっと、話を脱線しすぎた。ヤギさんは困ったように顔をしかめて、私に視線をよこしたので、苦笑いを浮かべて彼を引き剥がした。


「遥くん、動こうね」

「ねえ、だったらナマエ僕と一緒にここで寝て」

「はいはい、我慢我慢。弥太郎くん、遥くん、運んでちょうだい」

「弥太郎、僕とナマエの邪魔しないで」


私と遥くんいっぺんに言われてぐっと動きを止めた弥太郎くん。彼は聡明さんの命令しか聴かないから、こうなってしまうとやりづらい。
重たくため息一つ漏らすと「幸せ逃げるよ」とおっとりしたその雰囲気をまといながら私に言う遥くん、誰のせいだ。

困った私は首をかしげて遥くんを見ていると、彼は満足げに笑った。


「じゃあ、どうしたらいいの?」

「僕のそばにいて」

「甘えたさんっス」

「黙ってて夏輝」

「遥くん、一緒に寝てはあげられないけどそばにいます」

「…許す」


小さく遥くんはつぶやいた。相変わらず彼はマイペース。

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