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私の初恋は、終わったんだと思ってた。

小学校の時から、大きな体で、ちょっぴり怖い顔つきで、でもすごく繊細な心で周りを気遣ってくれる優しい人。

お話するときは私も十分気を使って言葉遣いを柔らかいものに変えた。


中学校も、高校も一緒、でも恋人という意味で一緒になることはない。彼には浮ついた話は一切ないから安心している反面、私には女の子としての目を向けられることはないんだと実感した。
甘酸っぱい恋ですね、なんて乙女チックな恋愛じゃないの、これは本当に辛いの。


「東峰」


世界は案外シンプルで、私が彼のことが好きだっていうことを知ると、彼は私から離れていった、じくじくする胸の痛みは取れない。無理に話しかけると媚びている様に見えて、私はそんな自分を嫌い、話しかけないヘタレな自分に腹を立てた。
目を合わせるとぴたりと彼は動きを止めて、あからさまに変な行動を起こす。だから、もういいんだと諦めた。
目の前には練習途中の彼が息を切らして首をかしげて手渡されるメモを見る。


「明日の授業変更、書いておいたから」


業務的な言葉でさえも詰まりそうだ、涙だって出そうな。恐れて傷つくたび臆病になっていく。彼は私より背が高くて顔を上げて見ないと表情がわからない。東峰は私の聞き取りづらい言葉をちゃんと耳に拾い取って、納得したような顔をした。


「あ、そっかぁ。俺そんときいなかったもんな、サンキュ」

「どういたしまして」


塒から飛び立つ鳥のように、さっさといなくなろう。自分に言い聞かせるように足を動かす、くるりと彼に背を向けて歩き始める。上履きと、廊下が重なって響く独特の音が耳に届く。どうして、早くいなくなろうとしたのにこんなに遅いんだろう。未練がましい。その時、私はひとつおかしいことに気づいた。

東峰の足音が聞こえなかった、ぴたりと歩くことをやめて東峰の方を振り向いた。


「なあ、ナマエ」

「な、に」

「…まだ、お前の声。聞き足りないんだ」

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