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出かけるといってもそんな華やかな場所じゃない、ちょっと遠いショッピングモールへお出かけ。もちろん近くにゲームセンターとか、カラオケとかはない。お洋服や、アクセサリー、甘いお菓子とか、書店とか。そこのショッピングモールでデートがしたいと、部活一筋の彼、東峰旭に頼んだ。
彼氏らしいこと一度もしてやれなくてごめん、なんて言いながら喜んで彼は私の頼みをかなえてくれた。
だが、出かける前に少し困ったことがあって彼を家に招待した。家といっても 家族は仕事へ出ていったから気まずいことなんてない。おしゃれな私服を着こなしている彼に三つのワンピースを突き出した。おしゃれなんて気にしなかった私にはどれが一番いいのかわからないのだ。家の中では西谷特製のTシャツを着ているし、出かけるときなんてだいたいは親が買ってきたものを着る。親が用意するのはかわいらしい、お姫様が召使に着せてもらうようなもの。
はっきりいうと、デートを頼み込んだ人間がおしゃれをきにしない無頓着野郎がどの服を着るべきか迷っているのだ。
「東峰くんはどのワンピースがかわいいと思う?」
アイスティーを飲みながら彼はにこやかに答える。
「どっちも似合うと思うぞ?」
「んー」
褒められてうれしいけれど、やっぱり全部着ていくわけにはいかないからちょっとだけ困ったような顔をする。彼はおもむろに立ち上がって私に近づいてワンピースを受け取ると、一つずつ私に当てて、真剣なまなざしで見つめている。ドキっと心臓が跳ね上がりそうになる。一枚のワンピースをとって首を縦に振って、あどけない笑顔を浮かべて言う。
「俺はこっちのほうがいいと思うんだが、やっぱ、いや、その」
「怒ったりしないからそんな小さくならないで」
「癖なんだよ。けど、きっぱり言うと「成長したな」とか感動しながら俺の名前呼んだり」
「バレー部っていい人たちばかりなんだね」
「え、なんでそう思ったんだ?大地なんていっつも俺だけに厳しいぞ」
もやもやと頭の中に澤村の顔が浮かんできたけど、厳しい姿なんて思い浮かばない。にこにこしていて、好青年って感じがするんだけど、あれはもしかして猫かぶりだったのか。自分が着ていた西谷特製のTシャツを脱ごうと服の袖に手をかけた。
「って、ここで着替えるのかお前」
ぴたりとその一声で私は行動を止めた。彼はすごく焦っていた。なぜだ。
「東峰くんは私のハダカ見たってテンション上がったことないじゃない」
不満げに私が彼に言うと、彼は顔を赤らめて近くにあったクッションを投げつけた。強面のはずなのに、あんなに恥ずかしがられると私だって恥ずかしくなってくる。
「テンションの上げ下げの話じゃなくて、一応俺も男なんだけどっ」
「将来的には同居するかもしれないのに?」
「そ、そういうのはイメージトレーニングだけでいいだろ」
頭を抱えてため息交じりに言った彼の姿を見て、罪悪感が芽生えた。奔放な私につきあわせているのに、嫌な思いばかりさせている。手早くワンピースを着て、髪の毛を整えて少しだけ崩れた化粧を直した。東峰君は未だ頭を抱えて呼吸を整えている。よく見ると、耳が赤くなっている。アイラインを引き直しているとき、私はいたたまれなくなって彼に謝罪した。
「そうだね、悪ふざけも過ぎた。ごめんね」
「はぁ…もう少し俺を意識してくれないか」
「してるわよ」
くしゃりと自分のワンピースを握った。少ししかないイブンの魅力くらいわかってる。
「もっと、こう、触れただけで照れるくらいの意識が欲しい」
「触れてくれたことなくない?」
「そうか?そういえば俺から手をつなぐことも少ないな」
「だよね」
「じゃあしてみるか」
「試してみるって、どうやって」
着なかったワンピースと、アクセサリーに雑誌、化粧道具が散らばっているベッドにゆっくりと東峰は私を倒していく。私のふんわりとした展覧付のベッドだ。力強くしていたら、きっとベッドのスプリングが響いている。しゅるりしゅるりと私を縛っていた何かがほどけていく。その刹那がミレニアムの夜のようだった。変貌するんじゃなくて、緩やかに花開いていく感覚に近い。東峰の余裕のない顔はいつも見るけど、本能と戦っている表情は初めて。
「鉄は熱いうちに打てっていうだろ?ほら、じっとして」
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