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お父さんもお母さんも帰りは遅い。一人っ子だし、部活帰りでご飯を作るのも面倒だから商店街に降りて、坂ノ下商店の肉まんと軽めの惣菜を購入する。いつもレジを打ってくれるお兄さんは、金髪で一目見た時怖そうだったけど「これ、ひとつおまけな」と先日豚角煮まんをくれたからいい人なんだとわかった。それから私はよく、お兄さんに話しかけるようになった。
名前は聞く勇気なんて微塵もないけど。


「坂ノ下商店のお兄さん、結婚しないの?」

「うっせぇ、小娘」

「小娘じゃないっす、ミョウジナマエ!」

「お前こそ彼氏とかいねぇのか」

「生まれてこのかた一度もないですけど何か、ちなみにキスもまだです」

「少しは恥じらえ小娘」


タバコに火をつけてゆっくりと息を吐いた。
そういえば、電車の中でもお兄さんと同じ匂いを嗅いだ。まあ、たくさんの人がいればお兄さんと同じメーカーのタバコを吸っている人なんていないことはない。でも少しだけ違う、もっとこう。


「若々しい香り?」

「お前頭大丈夫か」

「学年で3位にそれ言っちゃいますか」


減らず口を叩いていると、鋭い目つきに変わった。この顔は真剣な話をするときにしか出てこない、私にとってはプレミアム招待されたように有頂天にさせる。ニヤニヤしていたら、ずいっとお兄さんは顔を近づけさせた。
あと数センチで唇がくっつきそう、触れてしまったら戻れない、ん?戻れないって何に戻るんだ?


「あんまり大人なめてんじゃねぇぞ、いつでもお前に手出せんだからな」

「なら、お兄さん。私は今が食べごろだよ」

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