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「月島くん、あなたはどうしてかなわない恋を続けているの」


山口もいない、友人である彼女とたった二人で歩いているといつもこんな話題を振られる。女子だから恋愛話をするわけじゃない、彼女はきっと恋愛ではなく心の話をしたいのだ。はっきり言って、それは僕にとってとても煩くてどうでもよかった。ヘッドホンをかけて、会話から逃げようと一瞬考えたが、それはそれで得策ではないと思い質問の意味を聞き返した。


「かなわない恋、それってどういう意味」

「そのままの意味だよ」


その返答はまるで僕をバカにしているような言い方で、腹が立つ。僕が顔をゆがめて、目の前にいる彼女はニタニタと自慢げに笑っている。ああウザったい、どうして僕の周りにはこういったウザったい奴らばかりなんだろう。ポケットから自分の手を出して目の前の彼女の頭をつかんでみる。けど、反射的に彼女はよけて数歩先へ進んでいる。


「かなわない恋にいつまでも恋をしている」

「はあ?とうとう頭壊れたの?言葉遊びならほかの人としてくれない?」

「ちょっと待った、私だって単に月島くんと遊びたいわけじゃないのよ」

「だったら、まどろっこしいことなんてやめてさっさと本音吐いたら?」


数歩先へ進んで足を止めない彼女に、僕は彼女より長い足で追いつく。満月がきらきら光って住宅街が絵になる。影が影を追うようにできている夜の道に僕はイラつきながら口を開いた。前ばかり向いている彼女は、特別驚いた顔もしないで僕を見る。狙った獲物を逃がさないように、魂を吸い込むように目を丸くさせてじっと見つめる。そんな視線が僕には苦しい、逃避行なんて許されない雰囲気に押されている。背は彼女より大きいはずなのに、僕は真剣な時に弱くなる。


「月島くん、私はねかなわない恋に恋している君が好きだよ」


だから、その意味が分からないんだって。かなわない恋に恋しているって、僕はいつ恋をしたんだよ。初恋なんてしたことない僕に、知ったような口を利くな。


「バレーに恋をしたいんだよ、本気になりたいんだよ、君は」


僕はその言葉にしばし黙って、彼女が口を開く前に僕が言葉を続ける。


「そうだね、僕は本気になりたいけど、がむしゃらに、バレーをしたくても僕にはそれが無謀に見えて嫌なんだ」

「でも、そんな立場に月島くんは自身に恋をしているの」

「はあ?」

「それでいい、それがいいと本当の君に蓋をしてね」


言い終えた途端、彼女はまた歩き始める。前ばかりを見て、僕は後ろで立ちすくんで動けなくなったなんて知らんぷりして。ああ、なんて彼女は底なしに性格が悪いんだろう。
満月とともに彼女はぐんぐん距離をあけていく、僕は我に返って足を動かす。放置されないように、ついていくけど彼女は振り返ってすごく残念そうな顔をして僕を見つめる。コーディアライトの瞳が二つぶつかると、あの大きな月に負けないような気がする。


「さ、足並みそろえて帰りましょうか」

「あのさ、さっきまでこの僕を置いて帰ろうとしていたのに、その言いぐさはないんじゃないの」

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