log | ナノ
病み表現を含む




「つまらない御託を並べるのはよしましょう」


シャワーの流水が鬼の手によって止められた。びっしょりと濡れている姿を見る限り、一悶着あったんだろうと考えた。排水口に向かって誰かの血が流れていく。鬼と私をはさんで倒れている、元肉体は引きちぎられていて原型をとどめていない。誰だっけ。バスタブの中に沈められていた私は無理やり腕を引っ張られて起こされたので、ぐわりと視界が歪む。めまいがする。

鬼は私を見るなり、少し考え込むような素振りをしてから小さく舌打ちをした。何をしでかしたんだろうか、私は今までしてきたことを振り返るが些細な悪さが多すぎてわからない。


「まず、あなたには着替えてきてもらいます。知らない鬼の匂いがします」


ガツンと金棒をひとふりすると、バスタブが粉々になった。私を除いて。一瞬のことで私は言葉を失う。もし、間違ってこれがあたっていたら元肉体と同じ様になるんだ。よく鬼の顔を見ると、飛び散った血が頬や目の上についている。
その顔が私の服の襟元に近づいてきて後退するが、それを阻んだ鬼の右手。すんっと一度だけ嗅いだら顔をしかめる。


「あまりにもその匂いは好ましくないですね」

「だからといって着替えるのは手間」


精一杯の私の強がりはどこまで続くか試してみるが、案の定鬼は明朗を忘れた青年のような雰囲気を漂わせて、私を見下ろす。鬼の右手は私の片腕に絡みついてくる。


「あなたが手間ひま取るのはどうでもいいんです。胸糞悪いその匂い、消してきてください」

「…」


どうしてこういう状態になってしまったのか私には到底理解はできない。恐怖で言葉を忘れた私はその男の言葉に「うん」も「はい」も言えない。首を縦にふることすら怖くなって、鬼を見上げた。


「それとも消せない理由でもあるんですか」
|