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「貴方はとてもわかりやすい人ですね」

「え」


書類作成に追われてひいひい言っている私に、後ろから声をかけたのは鬼灯様だった。
はあ、っと聞きなれたため息をひとつついて私の腕を掴んでそのまま手首に力をかめて握った。

ぎゅっと、力をかなり込めたわけじゃないのに手首からは悲鳴、書類のかき過ぎによって引き起こされた腱鞘炎に顔を歪めると懐から出したシップと包帯を器用に巻き付ける。なぜ、懐から出てくるのかと聞いたら「もしやと思い、持ってきました」何て紳士発言をした。


「嘘をつくことが下手くそですね。本当に」

「鬼灯様は私と真逆ね、わかりづらいわ、全て」


にっこり笑って言ってやれば鬼灯様はチっとキレのいい舌打ちをかます。子供っぽくて私はニヤニヤして「子供ですね、あなたも」と意地悪そうに言うと、ペチンと患部を叩かれた。小さく痛いと伝えると、ふっと満足げに笑った。


「子供なのはあなたです、何も言わないですませるのが一番手を焼くものなんですから」

「…子供育てたことないくせに」

「新入りを育てるのと同等です」

「いつか本当の家族を手に入れたとき困ったちゃんにならないでね」

「なりません、それに家族を作る気なんて毛頭ありません」

「もしかして誰かを好きになったことはないの?」


腱鞘炎ではないも片方の腕を使って頬杖をついて鬼灯様に聞いてみると、むっとした表情になって何も答えない。

アレは図星なのか、それとも一度も恋をしたことがないことを馬鹿にされて腹を立ててそういった顔をしているのか。


眉を寄せて私から視線を外して「仕事、早く終わらせてくださいね」と言って出て行った。やっぱり、私にとって鬼灯様はわかりにくい、顔に出ないし言葉にも表さないし、嗚呼からかってもつまんない。

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