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振り向いてもらえないのは十分知っている。いいや、振り向いてもらえる確率なんてゼロ。料理を任されているだけの一海兵に構ってくれる准将なんているだろうか。

嫌味で言っているわけではない、私が言いたいのは、彼らはただでさえ忙しい。だから人の顔をいちいち覚えてられないはずだ。私だって、この食堂を任されているけれど全員の顔と名前が一致するとは限らない。

葉巻の匂いがした、ふっと私は振り向くけどもういない。

幼馴染には「一途でいいことだ」と笑われたけど、このまんまじゃ私は失恋を覚えないかもしれないと笑いながら言うと「どうせ、すぐにスモーカー准将にはぴったりな人が現れて結婚しちまうよ」と返された。この言葉に私は何も反論できない。これが現実にあったら私は失恋するだろうか。それを試すのもいいかもしれない。
だんだん恋愛が、私が私の心を試す、ということに変わっているような気がしてならない。

「やっぱお前はドがつくほどバカだよ」

「そうかな?あ、無自覚って一番やばい状態なんだよね」

「それを危機感なしで語っているお前が一番怖い。じゃあ俺と結婚しよう」

「話が変な方向に進んでるような気がする」

目の前に出された婚姻届。直で見るのは初めて。いつの間にか私の欄に名前が書いてある、どう考えたって幼馴染のやってることが怖い。その時、目の前が煙でいっぱいになった。あれ、これってフェードアウトっていうやつかな。てか、その前に、海軍のわたしがこんなにのんびりしてていいのか?


何故か目の前がだんだん晴れてきて滲みた目をこすって開いてみると血みどろになった幼馴染がいた。何があったんだろう、さっきまで馬鹿やっていた幼馴染は息絶えている。こんなにも早く人間って死ぬのかな。怖くなって小さく震えだした体。

「もう心配しなくていい」

そんな言葉が聞こえたけど、この状況で落ち着いてこの音声が誰のものか判断するのは難しい。そっと顔を上げるとそこには、スモーカー准将がグローブを真っ赤に染めて立っていた。そういえば、モクモクの実を食べたスモーカー准将は体が煙のようになるんだっけ。

「お前は俺に片思いしているだけでいい、誰にも奪われちゃいけねぇ。体も心もだ、わかったなら今すぐに俺に跪け」

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