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甲板に出てみるとお目当てのシャンクス船長がいた。走って彼のもとへ駆けつける。


「シャンクス!!ねえねえ教えて!」

「んー?なんだナマエ、随分の騒ぎようだな。いいことでもあったのか?」

「えへへ」


赤髪の彼の黒いマントを引っ張ると優しい笑顔と甘いテノール声で振り向いてくれた。ずっと前からこの笑顔が大好きだ。怒った顔も好きだけど、怒られた側としては何よりの恐怖映像だ。遠い昔にベン副船長にシャンクスの笑顔が好きだと熱弁していると「それはお頭に言っちゃあマズイからな。襲われんぞ」と釘を刺された。「襲う」ってなんだろうか。
シャンクスは今まで仲間同士の喧嘩を嫌っていたし、同族どうしの戦争も好ましいものではないと言っていた。なんだろう…?
私はシャンクスの隣に座っていい?と聞いて見ると「おう」と短く答えて頭を撫でる。
ルフィがいたときは同時に頭を撫でられていたが、今はその片方はない。同時にルフィもいないから私一人、独占だ。


「あのね、ヤソップさんが言っていたんだけどね」

「おうおう!」

「シャンクスは女誑しって言ってたんだ。女誑しってなあに?聞いたことがない言葉なんだ」

「…」


にこやかに聞いていたシャンクスは私が「女誑し」と言うとぴたりと動きを止めた。笑顔も余裕のあるものではなく張り付いたものに摩り替わっている。何やら彼の動作を見る限りいいと言葉ではなく、悪い言葉であることが判明した。ブンブンと足を揺らしていると、ほどよくしてからシャンクスは動いた。


「あ、で、どうなの?シャンクス」

「ナマエ、今の言葉は忘れてくれ」

「え、なぜ」

「そ、それはだなぁ…」

「シャンクスのケチ」

「ケチィイイ!?」

「いいや、辞書で調べてくる」

「や、やめろぉおぉお!!」


盛大な晩餐を終えてから私はもう一度食堂へ戻らなければならない用事があったので、立ち寄った。だが、私はとある光景を目の当たりにした。シャンクスとベン副船長以外、みんなが倒れ伏している。ついさっきまで仲良くしていたはずなのに、何をしたんだ、船員たちは。冷や汗が背筋をたどった。
足元を見ると、血も滴る素振りがなかったので覇気を使ったんだと実感した。誰か彼かがシャンクスに向かって地雷を踏んでしまったらしい。


「お、ナマエ」


覇気を出した張本人がめっちゃ清々しい笑顔で私の名前を読んだ。聞いていると腹が立つんだけど、殴っていい?いいよね、私は恐る恐るシャンクスに近づいてみると、片腕で優しく抱きしめてくれた。
タバコを悠々と更かしているベン副船長も何か知っているようだ。チラリと私を一瞥してため息をしているんだ、私関係だ。すみません。
ともかくこの現場はどうしておりなされてしまったのかは、聞かない方が身のためかもしれない。


「ナマエ、女誑しという言葉の意味はわかったか?」

「ううん、辞書を探したんだけどなくて。そのことすら忘れていたよ。ケチって言ってごめんなさい」

「だぁあっはっはっはは!素直さは色褪せないな。いいか、俺は女誑しじゃないからな」

「?」

「ナマエ、とりあえず命が惜しければ首を縦にふっておけ」


副船長のフォローによって私は何度も頷く。「よしよし」と褒めてくれた。



後日聞いた話。
女誑しのフレーズを出したヤソップに怒ったシャンクスが覇気を出してクルーも二次被害を受けてみんなが倒れていたらしい。
最後までカッコつけたいらしい、とベン副船長が言っていた。


「シャンクスはカッコつけなくてもかっこいいよ!」

「それはお頭に言ってくれ」

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