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潮風に髪の毛がなびく、手入れされていたものじゃないからもっさりしているけど、この時間がすごく好きだった。この潮風に吹かれると何もかも忘れられるようになるから。辛いことだって、悲しいことだって…そう、仲間が死んだことも。墓石に掘られた名前をそっと指先でなぞる、ああ、彼の名前はこう書くんだって切なく感じた。


「ナマエ、そろそろ出航する」


背後から現れた今の領主様、いいや船長と呼んだほうがしっくりくる。
赤い髪の毛に、その目の傷は痛々しくて、あごひげを蓄えた威厳のある人、シャンクス船長。私はこれから待っている未来に期待を胸に返事をした。


「はい」

「…行動と言動が合ってねえんだけど」


苦笑を浮かべてそういうったシャンクスさんに私は、バツの悪そうな顔をして即座に謝る。もしかしたら私の行動が彼らの足の遅れを取るようなものだったら…大変なことをしてしまったな。


「…ごめんなさい」

「いや、謝れっていうわけじゃねえんだ。お前の行動は素直だが、口は素直じゃねえな」

「…」

「っだーっはっはは!なに、最後に誰か見たいやつでもいたのか?」

「…」


盛大に笑ったあとに私がしていた行動を見ていたと言わんばかりの、答えに私はうっと詰まった。
もしかして、私がここに来るのを予知していたのかも。ジャラリと砂利を踏んでいる音が耳に残る。いつもの表情で近づいてくるシャンクスさんが私に近づいて、肩に手をかけた。くるりと墓石の前に体位を変えて、ポンポン、と肩を叩いた。


「ここか?」


こくんとひとつ頷いたら「ほぉ」っとしゃがれた声が頭上から聞こえる。


「立派な墓だな」


仲間を褒めてくれるような言葉に感謝の気持ちにいっぱいになった。
シャンクスさんにはたくさんお礼を言わなきゃいけないのは分かっている。
私を拾ってくれたこと、このお墓を褒めてくれること…シャンクスさんの方を向いて一度頭を下げた。


「…ありがとうございます、私を拾ってくださって」

「礼を言われるほどのもんじゃねえさ」


そう言っている割にはすごく嬉しそうに返事をするので私の胸の中が暖かくなる。
シャンクスさんは私の方をしっかり見て、目をそらさせなかった。
凛とした表情と、船長の器の彼は私に低い、優しいテノールで囁いた。


「…もし」

「はい」

「俺たちがあの時、お前に助けられていなかったらおっ死んでいた」

「…」


思い出すと、あの大きな氷河に囲まれた船は私たちが助けなかったら死んでいたな。
見つけたのはまぎれもなく私で、手伝って、って周りに声をかけたのも私。
それで、私がそう言ったせいで周りの人達は死んでいった。
プライスレスな関係で私たちは巡りあったと考えれば幸せなのかもしれない。
いいや、どっちとも取れない。
シャンクスさんは私の頬にそっと手を当てて、愛おしそうに何度も触る。
くすぐったいけど、次の言葉を待っていた。


「お前の力はすっげえんだぜ?俺らにはできねえものばかり持ってやがる」

「…」

「悪い意味じゃねえ」

「…はい」

「こいつァ、誰の墓なんだ?」

「…お友達です」

「…そうか」


シャンクスさんはお友達のお墓を見て「ありがとう、俺たちを巡り合わせてくれ」っと言った。
このめぐり合わせはシャンクスさんにとって、とっても喜ばしいことなのか、それとも計略的に有利になるから嬉しいのか?私は彼の正直な気持ちを分かることはできなかった。
頬からそっと手を離して、そのまま手をつないだ。


「んじゃいくか、ナマエ」

「…」


友達のお墓が遠くなる。


「遠慮なんかするな、ナマエ。ほら、あぶねえから捕まってろ」

「…あ」

「?」

「ありがとう、ございます」

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