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「火神くんは青峰くんみたいな気持ちにはならないの?」


放課後、青峰の幼馴染のアイツは俺を待ち伏せしてそんな言葉をかけてきた。ふんわりと髪の毛を揺らして、目を開かせてあいつは迫るように俺に聞いてきた。「青峰君みたいな気持ち」というのはどういうことか。首をひねって「は?」と聞き返した。あいつは苦笑しながら俺の表情をおもしろがるように答える。


「高校バスケの頂に立ち、すべてを見下して好敵手が現れることを諦める、そんな気持ち」


暗がりに映える色じゃないのに、あいつの目はキラリと光って見えた。それに、闇と同化して見えないはずなのに、はっきりと確認が出来た。俺には目の前にいる女の質問が愚問にしか思えない。


「んなこと思わねぇよ」

「けれど、火神くんはバスケをなめた時期があったよね」


どこでそんな情報を仕入たんだよ、とっさのことで口から飛び出そうになった。目の前にいる女の質問は、俺の神経に障るような感じだ。さっさとこの女から逃げて腹を満たしたい。俺は今練習で疲れてるわ、空腹であんまりオブラートに包んで物事言えねぇんだよ。


「いつかきっと、火神くんには胸に秘めていて、そして体に秘めているなにかが弾け飛ぶと思うんだ」

「才能、とかか?」

「それ以上のもの、青峰くんは才能を開花させた途端に戦わなくなったから。でも、私ね、火神くんにはすごく期待してるの」

「期待って、お前マネージャーでもないし、前に好かれてないってことに自信あんだよ」

「そうだね、私が嫌いなのは青峰くんとかぶって見えるからさ。火神くんはどんな頂点に立っても戦い方を忘れないでね」


「あいつと一緒にすんなよバカ」その一言が、あいつにかける最後の言葉だという事実を知ったのは朝練を終えてホームルームに出席した時だった。

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