その他短編 | ナノ

虚言
「好きなんだ」


ファイは嘘をつく、好きじゃないのに好きだって何度も何度も私の耳に近づけてささやく。ねっとりと、甘くてとろけるような毒を仕込むように言うから私も近々彼を好きになりそうだ。曖昧な返事をしていた時は、ファイ自ら抱き着くけど、だんだんはっきりした態度をとると、キスをしたりそれ以上を求めてくるのだ。私は悪くない、その気にさせたファイが一番悪い。今日もまた、ファイは私に愛を返してほしいとせがんでくるのだ。


「ねえ、俺のことが好きなら証明して」

「ファイ、眠たいよ」

「いやだ、寝ないで」


目をこすって、いかにも眠たさそうなそぶりを見せるが、ファイはそんなのはお構いなしで寝ている私の上に乗っかってキスをしてくる。息苦しくなって顔を離してほしいと、胸板を軽く叩いてみるが反応は返らない、むしろ激しくなってきた。「っ、」と、くぐもった声が聞こえた。舌を軽く噛んだら、反射的に顔を離された。どっと入ってくる酸素にゆっくり溶け込むと、目が覚めてしまった。


「嫌いにならないで、俺、一人は嫌だ」

「わかったから眠らせて」

「好きって言って、俺のこと、離せないくらい好きだって」


とうとう、ファイは泣き出してしまった。赤子をなだめるようにファイの頭をなでようと手を伸ばした瞬間、足に鈍痛が走った。よく見ると、ファイの手が私の足の上に乗っかって、体重をかけてあられもない方向へ曲がっていた。


「はやく、ねえっ」

「好きだよ、ファイ」


口から出た言葉に意味なんてないのに、ファイは嬉しそうに笑って魔法薬で私の足を治し始めた。ダメだ、やっぱり彼のことは好きになれない。

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