その他短編 | ナノ

嫌いだと思ってた
笑いの中心の田中は、私とはかけ離れている存在。彼が光だとすれば私は陰で、彼が正しいとすれば私は正しくない、悪者になる。ひがんでいるわけじゃない。普通に考えるとそうなってしまうのだ。私だってなれたら光にだってなりたい。けど、うじうじした性格と、卑屈っぽいところを治さない限り、あ、あと地味なところ?を治さない限りなれない。

ザアザア降る雨の中で私は死んだ子犬を抱えた。誰かの車にひかれたんだと思う、道路の上にごろりと横たわっていた。学校のすぐ近くの道路にだ。けど、誰も拾おうとはしない。可哀想、気持ち悪、誰が轢いたなんて言うくらいでみんな知らんぷり。私は友達に鞄を家まで届けるようお願いしてその子犬を拾った。友達はいつもの私の奇行に驚くこともなく、ただ「ちゃんと手を洗ってきてね」と言ったくらいだ。冷たくなって、グズグズになった子犬は声も上げない。ちゃんと抱いてやると、生きたころと変わりはない。


「きっと私も一人で死んでいくんだろうな。君は私と一緒だね」


なんて陳腐な言葉をかけた。口と心が合わさっていない言葉なんて腐り落ちる。一人で、死ぬのは嫌だという現れなのに。私は犬を抱いて生物学の先生に持っていこうとしたが、このままでは可哀想だ。犬が見世物になる。雨で湿ってしまった制服でもかけてやろうかと思った時だ、誰かが私が抱いていた子犬に学ランをかぶせた。上を向くと、田中だった。


「生物の先生に持っていくんだろ、俺も手伝う」

「いいよ、田中くんは部活じゃないの?」

「今日は土砂降りの雨だから部活なくなったんだよ」


てっきり私は田中はこんなことしないと思ていた。可哀想なんて思うけれど知らんぷりする人だと思っていた。それは私の思い違い。私は小さく「ありがとう」と言うと田中は「おお、じゃあ、持ってくか」と言って校内に入った。「田中は」と、私はかすれた声で言う。


「私みたいな薄暗い人、嫌いだと思ってた」


はっきり伝えると田中は一瞬だけぽかんとした、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。でもすぐに田中は「そんなことねーよ、むしろ仲良くなりてぇわ」なんて言っている。


「そりゃ、お前とはあんまりしゃべった事ねぇけど友達になってもいいだろ」


坊主頭の明るい少年がそう言っている、長い髪の女はやわらかそうな笑みを浮かべた。

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